下書き うつ病・勉強会#12 躁状態先行仮説-2

下書き うつ病・勉強会#12 躁状態先行仮説-2

躁うつ病、うつ病、躁状態、うつ状態について正しく認識しようというのがここからの話です。躁状態は実は大変数多く見られるもので、単に気分がよくて動き回るという軽度のものから、明らかに興奮していて周囲の人も手が付けられないほどの重度なものまで含まれると考えます。春になってウキウキすると思っていても、躁状態かもしれない。性的サービスを利用する人の一部は躁状態かもしれない。いつも騒々しいのはお酒のせいだとで済ませていたが実は軽いけれども躁病だったのかもしれない。たくさん買い物してしまう人の一部は躁状態なのかもしれない。たくさん食べてしまう人の一部は躁状態の可能性がある。アルコールをたくさん飲む人の一部には根底に躁状態があるのかもしれない。家出とか外泊とか少しだけ規範をはずれる行動も躁状態の可能性があるでしょう。

一方、うつ状態は現在考えられているほどは多くないのではないでしょうか。人々は自分のうつ状態には過敏すぎて、躁状態には鈍感すぎるのではないか。

そう考える人たちは、私も含めて、少数派ですが、躁病先行仮説(PM仮説: primacy of mania)を考えています。うつ状態の前には必ず躁状態があると考えるわけです。その躁状態は、現在考えられている躁状態よりも微細でマイルドなものが多いので、診断基準の訂正が必要です。つまり、うつ状態は躁状態の興奮の結果として、躁状態のあとに生じるものであるという仮説です。

もし躁病先行仮説が正しければ、うつ病治療は別の見方ができるようになります。現実のおおむねの方針は現在と変わりませんが、抗うつ剤で直接気分を持ち上げるというイメージよりは、躁状態の興奮を静めることがその後に起こるうつ病の予防になるとイメージします。今現在その方向になっていると思います。解釈が少し違うというだけですかね。治療の実態が変化ないのであれば長々と議論する必要もないというのももっともなことです。躁病先行仮説自体は現在受け入れられていませんが、努力しようと思っています。

現在の躁状態の定義をあげると、多動、楽しい気分、イライラ気分、眠る必要がない、それらの状態が1週間またはそれ以上続くものとされています。一方、うつ状態は気分は憂うつ、睡眠障害、食欲低下、興味減退、活力低下などが見られ、2週間かそれ以上続くものであるとされています。

疫学的研究および臨床の現場の従来の考え方としては、うつ状態は躁状態に比較して、症状は明らかで、より数多く見られ、そして患者さんの困難が大きいとみなされています。躁状態はうつ状態に比較すると、数が少なく、治療が容易と考えられています。躁状態のときは本人の病識が欠如している場合が多いでしょう。しかし興奮の時期が収まれば、病識は回復する人が多いと思います。しかしそれを学習して、次の興奮に生かせないのが躁うつ病というものだと思います。興奮に飲み込まれてしまう。本人にとって嫌なことではないですから。

しかし実際は、躁状態は現在考えられているよりもかなり多いのではないかというのが我々の見解です。躁状態には、気分が高揚して動き回るという単純なタイプのものから、いろいろなタイプの興奮性プロセスとして観察されるものまであります。一方、うつ病は、現在よりも厳密に狭く解釈されるべきだと考えます。さらに私たちは躁状態がうつ状態を引き起こすと主張しています。つまり躁状態はうつ状態に先行し、うつ状態の原因となっている。従って、うつ状態を予防するには躁状態を予防すれば良い。これが躁状態先行仮説による治療の原則です。分かりやすいと思いますし、実際に役に立つと思います。順次説明します。躁うつ混合状態とか嬉しいはずの時のうつ病とか統合失調症の興奮の後のうつ病とか、すっきりした説明で納得出来たらいいと思いませんか。まあ、説明が少し変わるだけと言われればその通りです。画期的な治療法などではありません。

横道ですが、画期的な治療法の人たちは最後まで診療してほしいです。途中で、あなたはメンタルだからあちらで治療とか言われても、困ります。

現在のほとんどの精神科医は、現行の狭い躁状態の定義になじんでいるので、様々なタイプの興奮性プロセスについては躁状態ととらえることは、すぐには受け入れられないと思います。躁状態を今より少し広く考えれば、理論としては明瞭になるのですが、理論が明瞭になって何が面白いのかと言われると、特に意見はありません。ただ分かりやすいからですね。

現在は躁状態を意味する「mania」という言葉は、古代ギリシャから1960年代まで、現在私たちが考えているよりもずっと広い範囲の精神障害を指す言葉として使われていました。

躁状態を現在のように狭い意味で考えるか、古くからのように広い意味で考えるか、私たちは古くからのように広い意味で考えるべきだと主張しています。躁状態に対しての現代的な狭い解釈は、科学的ではないしエビデンスも乏しいと考えます。このあたりは、古くからの考えを復活しようとか、論理の通らないことを言いたいのではありません。うつ状態に見られる不安とかイライラは実はマニー成分なのではないか、そう考えると便利ですよと言いたいだけです。昔、Akiskalなども類似の主張をしたことがあります。

躁状態を精神と身体の興奮状態としてもう少し広い定義で考えるべきだと、私たちは考えています。一方うつ状態はもっと限定して狭く考えるべきです。(つづく)

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