下書き うつ病勉強会#92 火事としての各種病気と焼け跡としてのうつ病-3

【誤解DSM中心主義 「あと2日でうつ病になってしまう」?】

そんなわけで、2023年現在のうつ病をめぐる状況を書いてみる。

現状ではDSMがどんな教えを広めているかだけが重要で、それで世間が納得するし、治療者もその大きな流れには従わざるを得ない。

昔のこと、お相撲さんが何かで問題を起こし、うつ病が問題になったと記憶する。その時の主治医さんがテレビで言っていたのは、「横綱は、これだけの症状がそろっている、診断基準では14日続けばうつ病だから、あと2日でうつ病になってしまう」とかの言葉で、再度確認するほどのものではないだろうから、言葉が間違っていても許してほしいが、これはなんだったんだろうと思う。我々精神科専門医は、あと2日でうつ病になるというような考え方に触れたのはほぼ初めてであった。この主治医は多分精神科専門医ではないのだろうと思うけれど、日本的伝統診断も理解していないし、平明簡単なはずのDSMも理解していない。驚いたなあ、あの時は。テレビもそれを何度も流していたから、そういうものだと思って流していたんでしょうかねえ。DSMをあのように誤解するとは。円周率は面倒なことがないように3でいいですと書いてあるのに、それを誤解するんだから、世の中は広い。

DSMというのは、普通の常識で言う診断基準ではない。何しろ、統合失調症の原因も不明、病気の進展の要因も不明、それなのに「普通の医学的な意味での診断」ができるはずはない。うつ病も双極性障害も同じ。DSMは診断基準ではなく、どの状態にどんな薬がどのくらい効果があったとか報告するための、状態を分類するためのものだ。DSMは統計処理のためのものである。

うつ病について言えば、改定ごとに診断が簡単に粗雑になり、したがってうつ病の範囲は増えて、うつ病の基準に当てはまる人は増えている。これは政治的なものだとよく批判される。しかし一般医師から批判などされてもびくともしない人たちが作っている。

個人的には、うつ病の範囲を拡大するのではなく、たくさんの症状のあるなしをきっちり細分化して、升目を細かくしてほしい。そして細かいそれぞれに、どの薬がどのくらい効いたとか効かなかったとか報告してくれたほうがいい。その時に伝統的な呼び名なんかは捨ててもいいから、D0001とかD01045とかでいい。まあ、これに対する反論も山のようにあって、負けは確定しているので、もう言わないとしても、状態像の診断として、どの人が診断しても同じになるように設計を工夫しているというのは、それはそうなんだろうけれども、それで統計処理の役目が果たせますかね。DSMは抗うつ剤を投与する人を決める基準だと考え方を変えれば、意味も目的も効果も分かりますが。

いろいろなうつ病を混ぜて、薬剤のテストをしたら、一部のうつ病によく効く薬は、良い結果を出せない。全般的に効くけれども、ぱっとしない、副作用が少ないといっているけど、ただそれだけの薬が検定に合格する。何しろ、プラセボに対して優位さを主張できない薬が多い。これは一つにはどれでもうつ病と認定しているからだろうと思う。

また、うつ病が拡大されて流れ込んできたもののひとつが、昔からある、ストレス関係の、因果関係のはっきりしない病態で、昔で言う神経衰弱とか、女性の更年期障害に近いものとか、適応障害に近いものとかで、そんな事情があるので、プラセボが思ったよりも効果を発揮してしまうということになるのだろう。お金をかけて開発したのにプラセボに対して優位さが付けられない。また逆に、プラセボなのに副作用がしっかり記録されるのも特徴である。どうしてそのようなメカニズムが成立するのか、これはこれで非常に興味深い問題であるが、差し当たって、DSMの目的である、統計処理をして、病気の原因と最適治療に迫るという点ではうまく機能していないと感じる。

【うつ病から双極性障害に診断変更?】

「あと2日でうつ病になってしまう」というのも問題だけれども、「うつ病だと思っていたら、よく聞いたら双極性障害に診断が変更になった」というのにも驚く。そんなことがないように適切に考えるのが診断学というものだ。患者さんが昔の躁状態を忘れていたらうつ病で、昔のアルバムを見ていて偶然躁状態を思い出したら、双極性障害に診断変更なんて言うのは、どうなんですかねえ。

まあ、DSMがそうしてくれと言っているのだから、それでいいのかもしれない。こんなことも、古い医者の繰り言なのかもしれない。円周率は3でいい。別に反対はしないが、個人的には別のことも考えている。

【駆け込み寺】

医学的原因のはっきりしない、ストレス性とも思える、心身不調状態を、うつ病とか適応障害とかの範囲を拡大することで、昔の神経衰弱や神経性胃炎などに替わって、拾い上げているという側面はある。たとえば、夫婦の危機があって、相談する場所として医療を選択するというのも方法だろう。そのくらいは妥協しよう。人生の問題の医療化である。

しかし、例えば、会社で上司に叱られた。パワハラだと証明する診断書が欲しいと来院したとする。これはどこが医療なのか?

医療としては、現在症を不安状態とか性格反応とかということはできるように思うが、気分の悪い原因がパワハラだと医学的な判断として診断書が発行できるはずはない。この患者さんはそういう考え方をする人なんだなと分かるだけで、現場検証もないし、目撃者の証言もないし、発言の証拠もない。・・・1

DVでけがをした。だから証拠を残しておきたい。整形外科で骨折や外傷の写真を撮影して、診断書をもらう。これは医療領域の診断行為である。警察に行っても、DV相談所に行っても、骨折の写真は撮ってくれない。・・・2

1と2ではやはり分野が違うように思う。

【認定書類発行所】

書類に関して言えば、各種診断書はますます範囲が広くなっている。

休職の診断書。いつまで休むかの明確な医学的基準はない。

復職にあたり、制限勤務の程度。これも明確な基準はない。さらに主治医は、会社の内情を知らない。

休職に伴う傷病手当金請求書類。休んでいる間は、治療が仕事だと思って通院加療してくださいと言っているのに、さぼる。旅行に行く。普段は忙しくてできないことをやる。あとで保険組合から、通院回数が少なすぎるがどうしたのかと質問が来る。

障害年金書類。うつ病についても、障害が固定した場合には認定されて、支払いされる場合がある。

以下は実際の書式である。

障害が固定したかどうかを記入する場所があるが、双極性障害やうつ病はクレペリンの昔から、循環病であって、悪いときがあっても、やがて正常な時期が訪れるのである。その点で、統合失調症とは違う。この経過の違いが病気の診断基準の大事な一部なのである。だからうつ病とする限りは障害が固定したとは考えにくい。

また、以下の諸項目を診断する必要がある。

(1)適切な食事一配膳などの準備も含めて適当量をバランスよく摂ることがほぼできるなど。
□できる
□自発的にできるが時 には助言や指導を必 要とする
□自発的かつ適正に行うこ とはできないが助言や指 導があればできる
□助言や指導をしても できない若しくは行わない
(2) 身辺の清潔保持一洗面、洗髪、 入浴等の身体の衛生保持や着替え等ができる。 また、
自室の清掃や片付けができるなど。
□できる
□自発的にできるが時には助言や指導を必要とする
□自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできる
□助言や指導をしても できない若しくは行 わない
(3) 金銭管理と買い物一金銭を独力で適切に管理し、やりくりがほぼできる。また、一人で
買い物が可能であり、 計画的な買い物がほぼできるなど。
□できる
□おおむねできるが時には助言や指導を 必要とする
□助言や指導があればできる
□助言や指導をしてもできない若しくは行わない
(4) 通院と服薬 (要・不要) 一規則的に通院や服薬を行い、病状等を主治医に伝えることが
できるなど。
□できる
□おおむねできるが時 には助言や指導を 必要とする
□助言や指導があればで きる
□ 助言や指導をしてもできない若しくは行 わない
(5) 他人との意思伝達及び対人関係一他人の話を聞く、 自分の意思を相手に伝える、集団
的行動が行えるなど。
□できる
□ おおむねできるが時には助言や指導を 必要とする
□助言や指導があればで きる
□ 助言や指導をしても できない若しくは行 わない

(6) 身辺の安全保持及び危機対応一事故等の危険から身を守る能力がある、通常と異なる
事態となった時に他人に援助を求めるなどを含めて、適正に対応することができるなど。
□できる
□おおむねできるが時には助言や指導を 必要とする
□助言や指導があればで きる
□助言や指導をしてもできない若しくは行わない
(7) 社会性一銀行での金銭の出し入れや公共施設等の利用が一人で可能。 また、社会生活に
必要な手続きが行えるなど。
口できる
口おおむねできるが時 には助言や指導を必要とする
□助言や指導があればできる
□助言や指導をしてもできない若しくは行わない

これを一読すれば、どのような人が対象となるのか、理解できそうであるが、そうはいかない。

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検索で、「障害年金 手続き」などと入れて調べると、初めのほうは役所のサイトですが、続いて社労士事務所など、手続きを支援する業者がたくさんたくさん出てきます。

「障害年金の申請にはテクニックがいる」、「一般の人がやると失敗する」「医者が書いたままの書類を出せばお金がもらえない」などとネット上で書かれ、最後には「社労士に任せるのがベスト!」などと書かれていて、報酬としては、年金の二か月分が多いようです。社労士さんの内輪のサイトではもうけ話で盛り上がっているようです。医者の言うことなんか聞くな、何が何でも重度の認定を勝ち取れと言ってます。

さらにサイトを読んでみると、

障害年金は、「請求者の日常生活と労働にどれだけ支障が出ているのか?」という観点で審査されます。普段の診察では、ご自身の大変さや苦しさを伝えることがやっとだったり、調子が悪いときは発言すらできなかったりで、障害年金の審査で重視されるご自身の日常生活を、あまり詳しく又はほとんど伝えられていない方も多いと思います。そのせいで、実態と大きくかけ離れている(症状を軽く書かれた)診断書が出来上がってきてしまうことがよくあります。

もし、これを社労士が代理したのであれば、「日常生活をできるだけ医師に伝えるにはどうしたらよいか?」をご本人にアドバイスしたり、医師への依頼状などで、忠実にご本人の日常生活を診断書へ反映していただく、ということができます。(ただし、昨今障害年金の経験が浅い社労士が代行するケースが増加しており、医師への配慮を欠いた行動を取って医師を怒らせているケースがあります。今後の治療に悪影響が出てはいけませんので、依頼状をご希望される方は、事前に社労士に頼もうと思っていることを主治医にご相談された方が良いと思います。)
また、診断書が出来た後に、「不備は無いか?」を提出前にチェックすることが出来ますので、不備があればすぐに主治医に整備をお願いすることが可能です。(これも経験の浅い社労士ですと、不備とは言えないのに不備だと思って医師に修正依頼をしているようです。多忙な医師に無駄な手間を掛け、結果まで余計な時間が掛かっているのも、残念ながら事実です。)

などと書いてあります。我々精神科医は『実態と大きくかけ離れている(症状を軽く書かれた)診断書』を書くなどと言われているようです。

そこで実際にどんな話になるのか見ていきましょう。

(1)適切な食事一配膳などの準備も含めて適当量をバランスよく摂ることがほぼできるなど。

私はうつ病なので食欲もなく、食事の支度をする意欲もない、買い物に行く元気もない、家族が用意してくれても、食べられないことが多い。

などと言います。しかし全然やせていません。

(2) 身辺の清潔保持一洗面、洗髪、 入浴等の身体の衛生保持や着替え等ができる。 また、自室の清掃や片付けができるなど。

意欲がないので何もできません。などと言います。過程で実際どうなのかは診察室にいる主治医にはわかりにくいですが、様子を見てわかる部分もあります。働いている人であれば、どんな風にしているかの見当は付きます。

(3) 金銭管理と買い物一金銭を独力で適切に管理し、やりくりがほぼできる。また、一人で買い物が可能であり、 計画的な買い物がほぼできるなど。

たまに財布を忘れる。お金の計算は遅い。などと言います。しかし医院の会計はいつもきちんとできています。

(4) 通院と服薬 (要・不要) 一規則的に通院や服薬を行い、病状等を主治医に伝えることが
できるなど。

飲み忘れることもある。などと言います。それは忘れることもあるでしょう。程度の問題です。それにこうして自分が障害年金に相当する重度で症状固定し、日常生活にも常に支援が必要であることを非常に力強く主張できています。

(5) 他人との意思伝達及び対人関係一他人の話を聞く、 自分の意思を相手に伝える、集団
的行動が行えるなど。

うまく話ができないことも多くあります。などと言います。しかし少なくとも今、自分の意思を明確に強く主張できています。目的に向かってまっしぐらです。

(6) 身辺の安全保持及び危機対応一事故等の危険から身を守る能力がある、通常と異なる
事態となった時に他人に援助を求めるなどを含めて、適正に対応することができるなど。

車にひかれそうになることがあります。などと言います。結果的にはひかれていないですね。

(7) 社会性一銀行での金銭の出し入れや公共施設等の利用が一人で可能。 また、社会生活に
必要な手続きが行えるなど。

できないことも多いです。などと言います。しかしいま社会的手続きのために非常に強力に能動的に動いていますね。

この話題についてはここまでにしますが、実際、いろいろな人がいます。

経済的困窮がどの程度かは分かりますし、なぜお金が足りないのかもわかります。たとえばパチンコですね。

長くなったのでページを改めましょう。

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