下書き うつ病・勉強会#18 躁状態先行仮説-6

下書き うつ病・勉強会#18 躁状態先行仮説-6

臨床精神病理学からの証拠

躁病 – うつ病 – 無症状期の周期(MDI)のパターン

DMI(うつ→躁→無症状)のパターンよりもMDI(躁→うつ→無症状)のパターンの方が治療によりよく反応します。この観察は、躁状態先行仮説によって説明できます。マニック・エピソードはたとえ急激な発症であっても、数日から数週間の前駆する興奮症状がみられるので、そのタイミングでリチウムまたは他の気分安定剤を使えばしばしば容易に制御できるのです。

躁うつ混合状態

混合状態は、私たちの躁状態先行仮説が正しいことを示すよい証拠です。一つか二つの躁状態の症状を含む、不快気分のマニーやイライラするうつ状態などを、混合状態の定義に含めるとしましよう。その前提で文献調査したところ、急性マニー・エピソードの約半分以上、さらに大うつ病エピソードの半分程度は、混合状態に属するものとみなしてよいのです。純粋な躁病と純粋なうつ病は、混合状態よりも数少ないでしょう。
うつ状態にみられる部分的な興奮は躁状態先行仮説では容易に説明できます。従来の双極性/単極性の二分法では説明が難しいでしょう。

双極性障害を持つ人の主観的な経験

双極性障害患者とその親族から直接もたらされるエビデンスがあります。マニーのあとにうつ状態を体験する人は多く、逆は少ないのです。この点に関する文献は膨大です。たとえば、「マニーを放棄することは困難でした。それに続いてうつ状態が必然的に起こり、ほぼ生涯にわたり苦しめられるにもかわらず」とある患者さんは書いています。双極性障害を持つ作家では「光り輝くエクスタシーに恋焦がれるのだが、それに続いて大きなうつ状態が続いて来るのを私は知っているので、もう諦めている」と書いている人がいます。

躁病先行仮説への想定される反論

いくつかの考えられる反論に対してコメントしてみよう。

表2
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躁状態先行仮説への考えられる反論
1。単極性うつ病の妥当性
2。うつ病ー躁病ー無症状(DMI)サイクルパターン
3。軽躁病の利点
4。抗うつ薬中止で誘発されるマニー
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単極性うつ病

おそらく、躁状態先行仮説への主な反論としては、マニーの要素をもつ病気のすべてを躁状態先行仮説で説明できたとしても、単極性うつ病が説明できないものとして残ることでしょう。単極性うつ病は興奮現象が皆無の点で双極性障害のうつ状態とまったく違うと言うことがとりあえずできます。しかし、第一に、発揚性気質の人の場合の単極性うつ状態( unipolar with hyperthymic temperament : U H-T)またはBPⅣ(アキスカルによる双極性分類の拡張のひとつ)の単極性うつ状態が考えられます。この場合には明確にマニーの形をとらない単極性うつ病の形になるのですが、微細に観察すればマニーの要素があると思われます。

第二に、一見したところ単極性うつ病の場合、ストレスフルなライフイベントが先行していることがあり、ストレスフルなライフイベントは、主観的な不快気分と睡眠障害を引き起こし、他の軽躁状態の症状が見られないとしても活動性の上昇を伴っています。これは明確な程度のマニーではないがかすかにマニーと考えられます。こうした時期は、その後のうつ状態の原因となるもので、「軽躁等価物」と呼んではどうかと提案したいと思います。感情的な混乱、多動、睡眠の減少などを伴うことがしばしばあります。その際に敏感な人々はマニーや軽躁状態と同じような神経の消耗を感じ、その後に抑うつを経験します。

第三に、多くのうつエピソードは、大きな不安やパニック、すなわち、神経の興奮に伴う現象の後に生じています。このタイプのうつ状態は不安関連神経興奮と関係しているので、「不安関連うつ状態」と名付けることができます。
したがって、上記状態をマニーを含むものとして除外しましょう。そのようにマニーの症状を広く定義すれば、単極性うつ病の概念は、ストレス状況とも「軽躁等価物」とも関係なく発揚性気質とも関係なく起こり、不安とも関連していないものになるはずで、現在の拡大混乱したDSMⅣの定義よりもずっと狭く限定されたものになります。DSMⅣで現在反復性単極性うつ病と診断される人が、人生を通じてみるとマニーまたは軽躁状態を経験していることが非常に多いと報告されています。反復性単極性うつ病もBPⅠもマニーと軽躁状態の症状の数はうつ状態の症状の数に相関していて、マニーと軽躁状態の症状の数が多いと反復性単極性うつ病の予後が良くないようです。

上記のようにマニーの定義を広く考える流儀は、反復性単極性うつ病へのリチウムの顕著な予防効果によって支持されています。リチウムは現在の定義の単極性うつ病の気分エピソード再発抑制に有効であり、自殺を予防することが知られています。リチウムがこのように効果的である理由を考えると、現在単極性うつ病と考えられているものの中にマニー要素が混入しているからだと理解できるでしょう。診断を精密にして、マニーの定義を広げ、神経の興奮要素を微細に把握すれば、リチウムが効果的である症例が分かります。単極性うつ病の定義として広いほうがいいか狭いほうがいいかは、マニーの定義を広くするか狭くするかという問題でもあるわけです。クレペリンはマニーを広く取ったし、私たちもそうしようと主張しています。一方、マニーの定義を狭く考えるのはカール・レオンハルトやDSM – IIIです。(つづく)

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