下書き うつ病・勉強会#30 経過と現在症状#1歴史

ここまで書いてきて、躁うつ病と双極性障害を厳密に区別しないで使っていた。日本語の日常語としては同じで構わないだろうけれども、しかし本当は意味が違う。このあたりを調べてみよう。

うつ病系統の疾患分類の歴史概観

【クレペリン以前】

・Kraepelin以前のことははっきりしない。症状ごとにいろいろな呼び方をしていた。メランコリー melancholy 、マニー manie 、デメンツ dementia 、イディオット idiot などがある。その後モノマニー、リペマニー、循環精神病 folie circularie 、重複型精神病 folie à double forme 、周期性精神病などが提案された。ドイツ精神医学では気分循環症 Zyklothymie 、気分高揚症 Hyperthymie 、気分変調症 Dysthymie などがあげられる。

・単一精神病論 Einheit Psychose も論じられた。精神疾患は本来一つであり、経過に応じて様々な症状を呈すると考えた。

【クレペリンの早発性痴呆と躁うつ病は経過を重視】

・大きな進展は1899年に起こった。Krepelinが「現在の症状」ではなく精神異常の「経過」に着目して、精神病を大きく二つに分けた。経過に連れて徐々にレベルダウンしてゆくものを早発性痴呆 Dementia praecox、経過の中で悪化しても元に戻る循環性の異常について躁うつ病 Manic Depressive Irreseinと名付けた。

・Kraepelinの考える理想的な臨床単位は「原因、症状、経過、予後、解剖所見」の5つが同一と確認できるものだった。精神病の原因と解剖所見については不明であったが、「症状、経過、予後」の3点について着目すれば、早発性痴呆と躁うつ病とに分けられると考えた。特に「経過、予後」を中心として見て、経過にはレベルダウンと循環があると見た。そしてレベルダウンには統合失調症の自我障害がセットとされた。また循環タイプには感情病がセットにされた。

・予後とは病気の最終結果の意味である。ひとつは早発性痴呆という名前からわかるように、痴呆状態が早期に始まり、レベルダウンしてゆくものと考えられた。予後不良である。もうひとつは循環病ともいわれ、時間がたてばすっかり元に戻るものである。躁だけを繰り返すもの、うつだけを繰り返すもの、躁とうつを繰り返すもの、これらをまとめて躁うつ病と呼び、一方で別名として、これらが循環することが特徴であるとして循環病と呼んだ。躁うつ病では症状は元に戻り、後遺症が残らない。予後は不良ではない。

・症状についていえば、早発性痴呆では知性の領域で障害が起こり、躁うつ病では感情の領域で障害が起こる。

・メランコリーの語に代わってデプレッション Depression を確立させたのもクレペリンである。

【躁うつ病は遺伝解析によって双極性障害と単一性障害に分けられた】

・クレペリンに対して、ウェルニッケ、クライスト、レオンハルトは躁うつ病の内部をさらに分類し、双極性障害と単一性障害に分けた。単一性障害は躁病とうつ病からなる。これはしばらくの間、広く採用されることはなかった。

・1966年、アングストとぺリス、さらにウィノカーは別々に遺伝研究から、単極性障害と双極性障害を区別すべきだと結論した。ドイツ精神医学の双極性障害と単一性障害が復活した。

【病前性格と発病状況を加味して包括的理解】

・テレンバッハは気質を重視し、メランコリー親和型性格、単極性うつ病、発育、病気の経過、予後、治療までを統一的に記述した。メランコリー親和型性格は勤勉、几帳面、真面目、 他者配慮、円満な人間関係などを特徴とする。

・下田によって執着気質が躁うつ病と関連付けられた。執着気質は熱中性、凝り性、徹底性、几帳面、責任感旺盛などを特徴とする性格。

・この系列の研究はのちに笠原木村のうつ病分類となり、原因、発病状況、症状、経過、予後などが関連付けられ、類型としてまとめられた。

【双極スペクトラムと感情病スペクトラムへ】

・1976年にダナー、1978年にアングスト、デュプーなどが躁うつ病の様々な下位分類を提案した。

・背景に単極性と双極性の中間領域があること、両者に移行があること、単極性うつ病の一部にリチウムに反応するものがあったことなどがある。

・クレルマンは双極性を6つに分類した。

Ⅰ型 躁うつ病

Ⅱ型 軽躁病

Ⅲ型 薬物によって誘発された軽躁病ないし躁病

Ⅳ型 気分循環性障害

Ⅴ型 双極性障害の家族歴をもったうつ病

Ⅵ型 うつ病をともなわない躁病

・ガーションは遺伝様式の二重閾値モデルを提唱した。

・1977年アキスカルが気分循環症―双極スペクトラム(cyclothymic-bipolar spectrum)を提案した。

・1983年アキスカルが双極スペクトラムを提案した。その後、軽微双極性障害(soft bipolar spectrum)を考えた。

・軽微双極性障害(soft bipolar spectrum)は以下の通り。

Bipolar Ⅰ 躁うつ病 (躁病エピソードとうつ病エピソード)

Bipolar Ⅰ 1/2 遷延する軽躁病を伴ううつ病エピソード

Bipolar Ⅱ   軽躁病エピソードを伴ううつ病エピソード

Bipolar Ⅱ 1/2 気分循環性障害

Bipolar Ⅲ 抗うつ薬誘発白白躁病エピソード

Bipolar Ⅲ 1/2 物質乱用と関連したうつ病・軽躁病(Bipolarity)

Bipolar IV 発揚気質者のうつ病

Bipolar V 循環性の混合性うつ病

Bipolar VI 認知機能低下と気分不安定(遅発性)

・その後のアキスカルのスペクトラム概念は以下のようである。

(挿話性障害)

・双極1/ 2型 統合失調感情障害の双極型

・双極Ⅰ型 うつ病エピソードと躁病エピソード

・双極Ⅰ1/ 2型 うつ病エピソードと遷延性軽躁病

・双極Ⅱ型 うつ病エピソードと軽躁病エピソード

・双極Ⅱ1/ 2型 気分循環気質のうつ病

・双極Ⅲ型 うつ病エピソードと抗うつ薬による軽躁病エピソード

・双極Ⅲ1/ 2型 うつ病エピソードと物質乱用による軽躁病エピソード

・双極Ⅳ型 発揚気質のうつ病

・ 双極Ⅴ型 明確な軽躁病のない反復性うつ病で、うつ病相で混合性軽躁エピソード

・双極Ⅵ型 双極性障害と認知症との意向領域

(間歇性あるいは持続性障害)

・慢性躁病

・連続交代

・遷延性混合状態

・感情病気質

―発揚気質(気質レベルでの軽躁)

―気分循環気質(気質レベルでの軽躁と軽うつの交代)

―易怒性気質(気質レベルでの躁うつ混合状態)

―抑うつ気質(気質レベルでの軽うつ)

・ガミーは感情病スペクトラムを提唱した。アキスカルはソフトバイポーラーなどを双極性スペクトラムに含める方向で考えた。ガミーは単極スペクトラムから双極スペクトラムまでを含む感情病スペクトラムを考えた。

というような流れで、一応の考え方としては、

【躁うつ病】=【感情病、感情障害(affect)】=【気分障害(mood)】=【双極性障害】+【単極性障害】=【双極性障害】+【単極性うつ病】+【単極性躁病】=【双極スペクトラム】+【単極スペクトラム】

という関係になる。だから、躁うつ病と双極性障害はカテゴリーが同じではない。躁うつ病が一段上で、双極性障害は一段下である。

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ここまではいいとして、続きがある。

遺伝研究によって躁うつ病が双極性障害と単極性障害に分けられた。しかし最近のDNA研究では、分けられないのではないかと言われている。単一精神病論 Einheit Psychose への支持がある。

また、薬剤に対する反応を研究すると、単極性うつ病の中にも二つあって、リチウムなどの気分安定薬に反応するものと反応しないものがある。これは区別したほうがいい。その見分け方はどうかなどが話題になる。

双極Ⅱ型はむしろ単極性うつ病に近いとも考えられており、双極という名前はよくないとの意見がある。

うつ病や双極性障害において、後遺症としての認知機能障害が研究されている。知性の領域とか気分の領域と分類するのも間違いかもしれない。

このような概念と言葉の説明は、学者さんの領域で、学者はいつも何か新しいことを言わないといけないので、困ったものだ。細分化したり統合したりしている。それを眺めているのは面白いけれど。

feelingとaffectionとmoodなどがあるがfeelingが一番浅いところで日々のエピソードに反応する感情の部分、moodは深い部分でやや大きな気分変動。

y=100sin((1/100)*x)+10sin((1/10)*x)+sin(x) としてみると、最初の部分が一番外枠の基本波動でmood、次がaffection、最後の部分がfeelingで短周期で影響も小さい。moodは脳の下位部分の波で、feelingは脳の上位部分の波だろう。

嫌なことを言われたとかのエピソードはfeeling、一年くらい嫌なことを言われ続けていて次も嫌なこと言われるかなと思って無力感を感じて憂うつになるのはaffection、季節性うつとか月経周期に一致しての気分変動とかはmood。心理学寄りと生物学寄り。

このように通観してみたので、まとめると、

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(1)クレペリンが精神病を経過を重視して早発性痴呆と躁うつ病に分けた。

(2)のちに躁うつ病を双極性障害と単極性障害に分けた。のちにスペクトラム論になる。

(3)躁うつ病の内部は、双極・単極よりもさらに細分化して、成育歴、家族歴、病前性格と発病状況、現在症状、経過、予後(そのほかに薬剤に対する反応性や社会背景など)をセットにして類型化されて笠原木村分類(KK分類)としてまとめられた。

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笠原木村分類には次の類型があるが、簡略化すると違ったものになってしまう感じがする。

第Ⅰ型:メランコリー親和型に基づく性格反応型うつ病

第Ⅱ型:循環性格を基礎とし,躁・うつ両相を周期的に繰り返す循環型うつ病

第Ⅲ型:未熟依存型自信欠如的な性格に持続的な葛藤状態が加わって生じる葛藤反応型うつ病

第Ⅳ型:分裂病質が躁うつ状態を示す偽循環型分裂病

第Ⅴ型:悲哀反応

第Ⅵ型:その他のうつ状態

平易に表現すると、

第Ⅰ型:うつ病になりやすい性格(メランコリー親和型)をもった標準的なうつ病。つまり一般的なうつ病です。

第Ⅱ型:双極Ⅰ型や双極Ⅱ型のうつ病。

第Ⅲ型:性格的な未熟さからくる依存的、自信欠如、高い葛藤によって生じるうつ状態。

第Ⅳ型:統合失調症的な特性があるばあい。

第Ⅴ型:肉親との死別や恋人との別離、その他ショックなことによって悲しんでうつ状態になるばあい。

第Ⅵ型:その他のうつ状態

元の分類は表が大きいので書ききれないのだが、このように簡略化してしまうのもおかしいと思う。見出しで何かがわかるのではなくて、成育歴とか性格とかその他いろいろが関連付けられてパッケージになったという点が眼目なのである。パッケージを味わうことが大事なのに。

本物の笠原木村分類にあたる必要がある。(つづき)

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