最近何回か続けて書いているのは、生活習慣の問題、生活習慣病、うつ病、これらに関係があるとの話である。
1.糖尿病とうつとの関連は,双方向性がある
⇒うつ病が長期化すれば、糖尿病になることは考えられる。しかし糖尿病からうつ病が発症することは説明しにくい。再血管の損傷や、脳に影響を与える糖代謝を考えてみても、そのことによって、内因性うつ病のような精神構造までかかわるような変化が起こるとは考えにくい。しかし、中核的うつ病ではなく、周辺的うつ病についてならば、糖尿病と双方向性があるとの意見も成立するだろう。
2.不適切な飲酒(アルコール使用障害)は,うつとの双方向性がある
⇒うつ病の長期化により、アルコール使用障害が発生することは説明しやすい。しかしアルコール使用障害からうつ病を説明するとして、それはやはり、中核的うつ病についてではなく、周辺的うつ病についてだろう。
3.行動変容によって生活習慣を改善すれば,生活習慣病のみならず,うつ病・認知症の予防・改善に寄与する
⇒生活習慣から生活習慣病が発生するのはいいとして、生活習慣の問題から直接に中核的うつ病が発生するのは考えにくい。糖尿病が前提として存在するならば、周辺的うつ病については発生するだろう。
4.血清総コレステロール値が低いと心の健康度も低く、うつ病になりやすい。また自殺行動のリスクが上昇する。
⇒これもやはり周辺的うつ病に関しての話ではないか。
5.心の不調は生活習慣病の一つという考え
⇒ここでいう心の不調は周辺的うつ病なのだろう
6.食事・運動・睡眠がしっかりとれていれば、ストレスを感じても跳ね返すことができますが、いずれかが不足してバランスがくずれるとストレスが積み重なり、心の不調につながっていく
⇒ここまで話が大雑把になれば、なんでも成立するだろう。
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つまり、ここで問題となっている精神的不調は、内因性うつ病(中核的うつ病)ではなく、DSMによって拡大されてきた、現在の『うつ病』である。DSMの『うつ病』の中には内因性うつ病のほかに、さまざまなうつ病が含まれており、否定形うつ病、心因性うつ病、さらにパーソナリティと関連したうつ病、ストレスに関係した因果関係曖昧な精神的不調など、様々な周辺的うつ病も含まれている。そうした、拡大された、周辺的うつ病についての話のようだと感じるが、どうだろうか。
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ただ、睡眠については、少し話が違う。
内因性うつ病では朝に一番憂うつで夕方から夜にかけて気分が楽になると言われている(日内変動)。これを説明するために、睡眠中にうつ病の悪化を促進するプロセスが進行しているのではないかとの推定は成り立つ。
また、断眠療法の知見もある。うつ病に対する断眠療法は,一晩の断眠直後から効果が発現する,有効率が約 60 %と高い,副作用が少ない,薬物抵抗性の難治性うつ病にも有効である,といった利点がある。断眠療法後の回復睡眠で再燃してしまうことがある。断眠療法の施行後に高照度光療法を行うことで断眠療法の効果が持続しやすい。
内因性うつ病では睡眠が病状を悪化させる。断眠で症状は改善する。つまり、内因性うつ病の睡眠には、健康な睡眠とは違う何かの性質があるのではないかと考えられる。
これは一般に、健康の維持のために良質な睡眠をとるべきだとの話とは別の話である。