#120で頭にあったことをかけずに違う話にそれてしまったので、もう一度。順方向の流れ(うつ病A)と逆方向の流れ(うつ病B)がある。さらに焼け跡修復反応としてのうつ病Cがある。実際にあるのは細胞と情報なのだから。
心因性とか内因性とか身体因性とか言っていて、それに対して賛否両論があるのであれば、それでは、だれでも共通に了承できる前提を確認して、そのうえで、何が考えられるか、という話になる。
精神疾患が起こっている詳細は分からないながらも、それが脳で起こっていて、神経回路として不具合だから、機能に不具合が出ているだろうとまず考える。反精神医学のような思考はここではひとまずカッコに入れておく。精神分析としてはもっと先の高度なことを考えているというだろうけれども、それもひとまずカッコに入れておく。
脳を普通に解剖してもよく分からない。神経回路がどうなっているかを知るには特別な工夫が必要だ。それは現在進行中で、いろいろなことが分かりつつある。でも、事実として提示されたものについて、解釈として違うものが出されたり、時間がたってから方法に内在する問題が指摘されたり、事実として確定されるにはやはり時間も必要だ。だから、本当に本当のことを知るにはまだ時間がかかる。
神経回路の研究の内容についてはまだ進行中のことで、簡単に紹介するのも難しい。たとえば、コンピュータの方面で神経回路がどう考えられているのかなどについては分かりやすい部分もある。
コンピュータのソフトを書くときに、考え方が分かっていれば、そのアルゴリズムに従ってプログラミングすればいいけれども、考え方が分かっていないんだけれども、「この入力があったときには出力はこれ」、という「入力ー出力」の多数の束があるとき、なんとかそれをコンピュータに独自に学習させたい、そんな感じで深層学習という実に頭のいい方法が開発されて、顔認証システムなどに応用されているらしい。犬と猫を見分ける方法を日常言語で書くのも難しいので、プログラミングも難しい。そこで、その論理の部分もコンピュータに見つけてもらおうというもの。たとえば、こんなのがある。
高校数学からはじめる深層学習入門・畳み込みニューラルネットワーク
この図の、遺伝子・神経細胞・神経回路・脳・環境状況(エピソード)の中を情報が流れて、それぞれ隣のレベルに作用して変化を起こします、という部分。ここが深層学習で扱っている図の部分になります。脳を真似したいコンピュータを今度は脳のモデルを考えるときに真似をするというので、なんだかいいような悪いような感じですが、コンピュータを真似たというほどのことではなく、脳の全体の構築を考えるとこのように考えるしかないという程度のことです。これが自明だから、コンピュータもこの図から出発するのでしょう。
深層学習で、順向きの情報伝達と逆向きの情報伝達が出てきますが、順方向と逆方向は「遺伝子・神経細胞・神経回路・脳・環境状況(エピソード)の階層構造」においても同じで、遺伝子から神経細胞・・・・・という順方向の流れと、環境から脳・神経回路・・・・・という逆方向の流れがあります。そしてそれしかありません。
たとえば、遺伝子に、17年くらいたったところで性的に成熟して配偶行動を始めて、などという部分があるのでしょうけれども、その情報は遺伝子から神経細胞に、さらに神経回路に、次は脳全体となり、環境を変化させたりする。これが順方向です。
たとえば環境にある温度情報などは、皮膚の温痛覚から脳に、そして各神経回路にという方向で流れて、一部分は神経回路の変更を引き起こし、さらに神経細胞に影響し、この細胞は活動オフ、こちらの細胞を活動オン、という具合にしたり、さらにその神経細胞を通じて、遺伝子に影響したりする。これが逆方向。
放射能は、感覚器の介在なしに直接遺伝子に作用して変異を引き起こしますね、それは例外。
内因性と心因性と言うのですが、内因性はどこで何が起こっているのか、分からないというわけですが、考えられる第一は神経回路のレベルだと思います。心因性の場合は、感覚器から情報が入って、やはり脳神経回路のレベルで不都合が起こっているのでしょう。心因性で神経細胞まで情報が行くのは、当然一部はあるはずですが、多くはないでしょう。遺伝子まで届くのはさらに少なくなるでしょう。
こんな風に考えれば、内因性と心因性という区別も、順方向と逆方向の話になるし、うつの本態としても、神経回路レベルで起こっている何かなんだなということになります。
身体因性の場合はそれぞれですが、たとえば甲状腺機能障害を考えると、ホルモンの変動が、神経細胞のレベルで効いて、神経細胞の活動に変化を与える。ここから、逆方向にも順方向にも情報は伝えられて、変化が進行する。
以上から、順方向の情報伝達が大きく効いているものをうつ病A、逆方向の情報伝達が大きく効いているものをうつ病Bとして、さらに、焼け跡修復型をうつ病Cと区別したらどうでしょうか。
うつ病Aは、遺伝子情報がどのようなトリガーで発現に至るかが問題です。桜の木のように一定の気温になれば開花するなどの場合もあるでしょう。体内のホルモン濃度がトリガーになる場合もあるでしょう。その場合に、遺伝子から神経細胞、次に神経回路までは分かりやすいと思います。
神経回路の後は脳を通して運動神経や自律神経に出力され、外界に作用します。その結果を感覚器がとらえて今度は逆方向の情報伝達が起こります。
うつ病Bの場合は、外界からの刺激が感覚器を通して脳に届き、神経回路レベルで変化が起こります。とてもつらいことを言われたので気分が落ち込むなど。しかしそれは神経細胞や遺伝子まで影響を与えることがあります。だいたい最近の感じでは、つらいことを言われて14日程度で回復していれば、正常の抑うつ反応、14日を過ぎてもへこんでいるようならば、心因性うつ病で、つらいことを言われたのが引き金のようではあるが本質的には内発性であるものが内因性ということになりますが、ここでの脳の階層モデルで言いかえると、つらいことを言われて14日程度で回復するというのは、外界から聴覚・視覚情報が入り、聴覚野と視覚野で処理され、感情処理回路で悲しみが発生し、しかしそれ以上は進行しないで、消えてゆくもの。
次につらいことを言われて14日を過ぎてもへこんだままで続くものは、外界から聴覚・視覚情報が入り、聴覚野と視覚野で処理され、感情処理回路で悲しみが発生し、それが神経細胞に変化をもたらし、遺伝子にエピジェネティックな変化をもたらす。ここまでは逆方向の情報伝達と変化です。さらにエピジェネティックな変化を起こした遺伝子から、順方向の情報と変化が始まる。
次に、つらいことを言われて14日過ぎてもへこんだままで続き、そのほかの状況を加味すると、どうも遺伝子で情報発信され変化が伝達されているもので、順方向に遺伝子、神経細胞、神経回路、脳、環境と伝わる系列が働いているようだと考える。そして外部環境からのフィードバック刺激として感覚器に情報が入り、以下、逆方向の伝達が行われる。
こんな風に考えると、正常抑うつと心因性抑うつと内因性抑うつがある程度同じメカニズムの中で連続的に理解できるのではないでしょうか。
分けてもいいけれども、明確には分けられない状況。結果として、紛らわしいことになっている。明確に区別する方法がない。しかし、たとえば順方向で言えば、遺伝子から脳回路までは当然だとして、そのあと、脳、環境に至り、そこから逆方向に情報と変化が流れてくることを意識して、症状を見れば、微細な症状が、これはどのレベルの、どの向きの変化を示しているのだろうか、と考えるようになるのではないか。逆方向の場合も同じ。
心因性は外界からの情報が神経回路レベルで反応して不都合が起こるので、主に神経回路に問題がある場合と、外界情報に問題がある場合とが考えられる。性格因性と言われるものは、神経回路のレベルで不都合が内在している。そこに逆向きでも順向きでも信号が入ると独特な反応を呈する。PTSDや急性ストレス反応の場合は、外界情報として極端な場合である。しかしそのようにくっきりと100%の原因を考えることができるわけではなく、結局のところ、脳神経回路と外界情報が出会って、不都合な反応が起こったとわけで、回路の特性と情報の特性がお互いに影響する。(つづく)