下書き うつ病勉強会#131 うつ病の現状のまとめ BDNF脳由来神経栄養因子

最近、「うつ」が増えてきているとよくいわれる。それは、 「うつ」という言葉が認知されてきており、以前のように隠 しておきたいという気持ちが減ってきて、それを表明しや すくなっていることが一つの要因と思われる。
何かあればすぐに「うつ」と言い、自分が不利な状況 になったり責められたりすると、決まって「うつ」ということばをキーワードとして物事から逃げようとするといった批判もある。

DSMでうつ病の診断が緩く拡大してしまったことが要因。製薬会社は診断基準を拡大させれば薬が売れる。神経症や心因性を排除して医学化してしまう方針。拡大方向の圧力に拮抗して拡大を止める資本圧力は存在しなかった。

「うつ」という言葉が先行してきたために“うつ病”が逆に軽視され、「誰もがうつ病といっている時代だから、うつ病は大した病気ではないのだろう」と誤解されるのが危惧される。
うつ病には、気持ちの落ち込み、憂うつな気分など抑うつ気分と呼ばれる症状とともに、どうもやる気が出ない、あれこれ考えるものの考えがまとまらないなどの特徴的な精神症状がみられる。また、多くの患者で不眠、食欲低下、倦怠感といった身体症状がみられる。うつ病は後述するように、脳の中の神経の伝達がうまくいかなくなるなどの機能の異常によって起こる病気であり、「気の持ちよう」や「心の弱さ」などで起こるものではないことをしっかりと把握することが重要といえる。
きちんと医師の診察を受け、適切な治療を受ければ治すことができる病気である反面、そのまま放置してしまうと徐々に悪化していき、最終的に自殺に至るという怖い病気でもある。
一時期、うつ病のことが“こころの風邪”と表現されることがあった。これは、まだうつ病があまり認知されていなかった時、気軽に病院を受診できるように“風邪と同じようなものだからあまり深く考えずに・・・”といった思いを込めてつけられた表現であった。しかし、実際にはうつ病はきちんと評価し対応しなければならない重大な病気であることをよく理解することが大切である。
DSM-4TR うつ病の診断基準
①抑うつ気分:気分が沈むあるいはすぐれない日が毎日のように続く。
②意欲・興味の低下:今まで普通にできていたことがおっくうで、やる気がでない。
③自責感:周囲の人に迷惑をかけているのではないかと悩む。
④焦燥感または制止:イライラして落ち着かない。考えが前に進まない。
⑤倦怠感:いつも疲れを感じている。疲れやすい。
⑥集中力低下・決断困難:集中力が続かない。決断ができなくなる。
⑦食欲低下:食欲がない。食べてもおいしくない。
⑧不眠:寝付けない。途中で目が覚めて眠れない。朝早くに目が覚める。
⑨自殺念慮:生きていても仕方がないと考える。

表の症状のうち、①抑うつ気分または②意欲・興味の低下のいずれかを含んだ上で(必須項目)、全9項目中5項目以上を満たし、それが2週間以上続いている場合にうつ病と診断される。
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DSM-5 うつ病(大うつ病性障害)の診断基準

以下のA~Cをすべて満たす必要がある。

A: 以下の症状のうち5つ (またはそれ以上) が同一の2週間に存在し、病前の機能からの変化を起している; これらの症状のうち少なくとも1つは、1 抑うつ気分または 2 興味または喜びの喪失である。 注: 明らかに身体疾患による症状は含まない。

1. その人自身の明言 (例えば、悲しみまたは、空虚感を感じる) か、他者の観察 (例えば、涙を流しているように見える) によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。注: 小児や青年ではいらいらした気分もありうる。

2. ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退 (その人の言明、または観察によって示される)。

3. 食事療法中ではない著しい体重減少、あるいは体重増加 (例えば、1ヶ月に5%以上の体重変化)、またはほとんど毎日の、食欲の減退または増加。 (注: 小児の場合、期待される体重増加が見られないことも考慮せよ)

4. ほとんど毎日の不眠または睡眠過多。

5. ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止 (ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的感覚ではなく、他者によって観察可能なもの)。

6. ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退。

7. 無価値観、または過剰あるいは不適切な罪責感 (妄想的であることもある) がほとんど毎日存在(単に自分をとがめる気持ちや、病気になったことに対する罪の意識ではない)。

8. 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日存在 (その人自身の言明、あるいは他者による観察による)。

9. 死についての反復思考 (死の恐怖だけではない)、特別な計画はない反復的な自殺念慮、自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画。

B: 症状は臨床的に著しい苦痛または社会的・職業的・他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

C: エピソードが物質や他の医学的状態による精神的な影響が原因とされない。
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診断にあたって注意しなければならないのは、表の⑥から⑨までの症状は、日常的によくみられる身体症状であるという点である。このためこうした症状は、それがたとえうつ病による症状であっても見逃されやすく、うつ病の評価を難しくしているといえる。

意欲・興味減退が興味・喜び減退になってよかった。興味というのが問題だけど。

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このように書いて、一般の人もうつ病の子細を目にするようになり、そのことが、一部の人の特殊な受療行動につながるのだろうと思う。情報をオープンにして市民が共有するのはいいことだけれども、そのことで人間の心理空間にゆがみが生じることも避けられない。医療・健康関係の情報のゆがみにはgoogleなども注意しているようだけれども、まだまだ野放しの、毒になる情報は多いようだ。

本来毒ではないものでも、誤読や拡大解釈や思い込みその他で、毒となってしまう場合もある。こうして書いている私自身、こんな感じの情報を書くことがいいことなのかと思うこともある。専門家同士のクローズドな勉強会にしたほうがいいと思うところもある。

YMYLとは、「Your Money or Your Life」の略語です。 「人々の将来の幸福、健康、経済的安定、安全に潜在的に影響を与えるテーマ」という意味があります。 YMYLに関する領域は人々に大きな影響を与えるため、Googleによって厳格な評価基準が定められています。

日常的によくみられる身体症状によるうつ病評価の混乱をさけるために、これまでもさまざまな診断基準が考案され、有用性の検討が行われてきた、しかし、個々の症状についての原因は問わず、あてはまる症状が存在した場合は診断項目に数える、すなわちうつ病を過小評価せず見逃しを減らすことのほうが重要であるというのが、現在の考え方になっている。

多少過剰診断になっても仕方ない。見逃しのないようにするほうが大事。

脆弱性-ストレスモデルについて
脆弱性-ストレスモデルは、精神障害の発症を考える上で提唱されているひとつのモデルである。従来から精神障害の成因は、身体的原因と精神的原因とに大きく分けられていた。身体的原因は、さらに、その原因や病態が脳の機能的器質的障害による外因性のものと、原因が十分に明らかにはなっていないものの、遺伝素因やなんらかの身体的基礎の関与が考えられる内因性とに分けられ、一方、精神的原因は心因性ともいわれ、心理的・環境的要因により発症するものとされていた。こうした精神障害の成因別の分類は、臨床的に理解しやすいため、長年わが国で用いられてきた。しかし近年、精神障害の発現には、上記の成因が複雑に関与しており、必ずしも明瞭に区分できるものではない、すなわち、ほとんどの精神障害はさまざま要素が重なり合って引き起こされるものであり、遺伝と環境的要素の両方がその発症に影響するという、「脆弱性-ストレスモデル」の考え方が受け入れられるようになった。

脆弱性-ストレスモデル」を提唱したのはZubinらで、Zubinらは統合失調症について、統合失調症が誰にでも等しく起こりうる事態ではなく、個体により脆弱性の違いがあり、その個人差ごとに十分な強度のストレスが加わって発病すると考えた。「脆弱性」とは、個体に備わっている罹患しやすさ、あるいは発病準備性のことで、19世紀からすでにその記述は認められていた。しかし、それまでクレペリン主義(統合失調症とは明らかな外的誘因なしに発病する疾患である)が支配的であった統合失調症の疾患論において、脆弱性を病態論の中核に位置づけた点で、Zubinらは20世紀後半を代表する仮説の生みの親ともいわれている。

このモデルによると、遺伝や脳の構造、脳内物質などの身体的要素は確かに精神障害を発症させる上で関連があるが、それはただ「脆弱性」すなわち「より発症させやすい性質」を作り上げるだけで、それのみで精神障害を発症させることはほとんどないと考える。したがって、最初は統合失調症の発症に関するモデルとして提唱されたが、現在ではほとんどの精神障害において、その発症にあたってこのモデルが適用されるようになっている。

例えば、躁うつ病は遺伝的要素が高く、遺伝率は89%という報告がある。しかし、もし躁うつ病の原因が遺伝(素因)のみだとすると、たとえば一卵性双生児での一致率は100%になるはずだが、実際はそうではない。つまり、躁うつ病を引き起こしやすいという性質は持っていても、必ず発症するわけではなく、そこに環境的な要素が関与していると考えられている。

逆に、環境的要素が強い精神障害として、外傷後ストレス障害(PTSD)がある。これは、著しく脅威的な、あるいは破局的な性質を持った、ストレスの多い出来事あるいは状況に対する反応として生じるものであるが、同じ出来事を体験したからといって、すべての人がPTSDを発症するわけではない。そこには個人の素因、すなわち脆弱性が関与してくることになる。

こうした中、うつ病に関して、5つの研究のメタ分析を行ったSullivanらの報告によると、その遺伝率は37%とされている。すなわち、うつ病は家族集積性を認める疾患ではあるが、その発症に環境要因が与える影響も大きく、うつ病の発症を考えるにあたっては、遺伝要因すなわち脆弱性と環境要因とを複合的に考える必要があるといえる。

家系研究においては、ある大規模研究によると、うつ病を認めた近親者の割合が対照群で7%であったのに対し、うつ病では20%であったと報告されている。双生児研究でも、双生児の一人がうつ病を罹患した場合、もう一人もうつ病を発症する危険性は二卵性よりも一卵性のほうが2~4倍高いという報告があるなど、遺伝的要因がうつ病の原因のひとつであることが示唆されている。養子研究では、養子がうつ病に罹患している場合、その生物学的近親者におけるうつ病の頻度は有意に高かったが、養子先の親族ではその頻度は高くなかったという報告があり、こうした見解からもうつ病の遺伝的要素の関与が疑われている。

ある性格傾向の人にうつ病発症の頻度が高いことは以前からよく知られている。わが国では下田が、躁うつ病の病前性格として「熱中性、徹底性、几帳面、真面目、強い責任感」などを特徴とする執着気質を提唱した。中でも、うつ病者は「几帳面、真面目、強い責任感」がより重要と考えた。この執着性格とうつ病との関係について下田は、ある期間の過労事情(誘因)によって睡眠障害、疲労性亢進をはじめとする各種の神経衰弱症状が起こると、正常者では情緒興奮減退、活動欲消失が起こっておのずから休養状態に入るのに、執着性格者では休養生活に入ることが妨げられ、疲憊に抵抗して活動を続け、ますます過労に陥り、その疲憊の頂点においてかなり突然に抑うつ症候群を発するものと説明している。

ドイツのテレンバッハが、うつ病とメランコリー型性格との関連を提唱した。これは、仕事上での正確性、綿密性、勤勉性、良心的で責任感が強く、対人関係では他人との衝突を避け他人に尽くそうとするなど、秩序性を基本とする性格傾向であり、うつ病はこうした傾向を保持することが困難な状況下で発症するというものである。

回復した患者においても、受動性、対人依存性、低い感情安定性などが再発の危険性を増すという報告がなされている。

これは『病後性格』と言ってもよいものです。

一方、病前性格論については、最近ではあまり有効ではないとの意見が強いようです。『うつ病脆弱性を準備するような要素』が『時代の空気』に触れて、執着気質とかメランコリータイプとかが観察されたとすれば、『うつ病脆弱性を準備するような要素』が『現代のその人の環境』と触れ合った時にどのような性格として表出するかは、昔と同じではないでしょう。『うつ病脆弱性を準備するような要素』は私の考えでは、M細胞とA細胞で見られる熱中性・精力性と強迫性・秩序志向・現状維持です。それが、例えば、品川あたりのサラリーマンではどのような性格傾向・行動傾向・感情傾向として観察されるかは、昔の研究との比較で興味深いものですが、実際の診療には、あまり必要ないと思います。たぶん趣味の領域ですね。

状況要因あるいは心理・社会的要因もうつ病の発症誘因として非常に重要である。実際、強いストレスやネガティブな要素を持つ出来事(死別、倒産、失職、近隣との人間関係など)とうつ病発症との関係については多くの研究報告がなされている。これまでの報告で、うつ病発症の危険性を高めると示唆されている状況要因あるいは心理・社会的要因を表2にまとめた。

表2うつ病発症における危険因子
〇一般集団
離婚または別離
配偶者の死
うつ病の既往
家族歴
人生における大きなストレスフルな出来事
薬物乱用
社会的孤立
11歳以前の母親の喪失
社会的支援体制の変化
〇女性
低い教育水準
不安定な婚姻状況
分娩後
〇男性
対人関係の変化

これらの出来事の中でも、特に別離や死別といった喪失体験は、うつ病発症に大きな影響を及ぼすといわれている。

はじめてのうつ病エピソードは、こうした強いストレスを伴う出来事が誘因となることが多い。そして、初回エピソードに関与したストレスにより、脳内の生物学的特性が長期的に変化し、それが積み重なっていくと、最終的には特に強いストレス要因がなくとも、その後のうつ病発症の危険性を増大させると考えられている。

てんかん発作と同じですね。回路ができてしまうらしい。

これらの状況要因によって引き起こされるうつ病の中には、名前が付けられているものがある。たとえば、転居の際に発症した“引っ越しうつ病”、過重な責任や負担から解き放たれた時に生じる“荷降ろしうつ病”、昇進により職務内容や立場が変わり、責任が重くなったことによって生じる“昇進うつ病”などである。

従来より、脳内におけるノルアドレナリンやセロトニンなどのアミンといわれる神経伝達物質の作用が低下しているというアミン代謝障害仮説(モノアミン仮説)がうつ病の原因として提唱されてきた。

それは、これらアミンを枯渇させる作用のある降圧薬のレセルピンがうつ病を引き起こし、一方でシナプス間隙で神経伝達物質の濃度を増加させる薬物(抗うつ薬)がうつ病に特異的な効果を持つといった臨床的な事実を背景としている。

うつ病者の髄液中のセロトニン代謝産物である5ヒドロキシインドール酸が低値を示す傾向にあることや、うつ病自殺者の脳内セロトニンおよび5ヒドロキシインドール酸が低値を示す傾向にあることなどが報告され、うつ病のモノアミン仮説を支持してきた。しかしその後、モノアミンの欠乏だけでは説明がつかないことが指摘されるようになってきた。

別な仮説として、脳内の神経細胞のシナプス後膜に存在する受容体(脳内伝達物質を受け取るところ。ここで物質を受け取ると、あるタンパク質を作る反応が起き、神経単位に変化が起きる)の感受性が高くなっているためうつ状態になるという受容体感受性亢進仮説が提唱された。この仮説は、ある抗うつ薬の慢性投与によって、ノルアドレナリンβ受容体の感受性低下が生じることが明らかになったことから立てられたものである。しかし、抗うつ薬のすべてに受容体の数を低下させる作用があるわけではないという報告がなされ、矛盾も指摘されるようになった。

近年では、神経細胞内のシグナル伝達経路に関する研究が進められている。抗うつ薬慢性投与が、神経細胞内のCREB(cAMPresponse element binding protein)というタンパクのリン酸化を亢進させ、BDNF(brain-derived neurotropic factor)という脳由来神経栄養因子の発現を亢進させているという報告があるなど、うつ病の発症にBDNFが関与しているとの指摘がなされるようになっている(ストレスによる神経細胞障害仮説)。最近、うつ病患者と非うつ病患者における血清BDNF値の差異を検討した11研究(n=748)、抗うつ薬による治療前後の血清BDNF値を比較した8試験(n=220)を対象としたメタアナリシスが実施された。その結果、うつ病患者群ではBDNFが健常コントロール群と比較して低値であるという強力なエビデンスが示された(p<6.8×10-8)。同様に、第2のメタアナリシスにより抗うつ薬治療後にBDNF値が有意に高くなることが示された(p=0.003)。

第1のメタアナリシス(p=0.376)あるいは第2のメタアナリシス(p=0.571)のいずれにおいても出版バイアスのエビデンスは存在せず、どちらのメタアナリシスにも一研究から過重な影響を受けたというエビデンスはみられなかった。以上の知見から、うつ病を有する患者では、血清BDNF値の異常な低値がみられること、ならびに抗うつ薬治療の経過に伴ってBDNF値の上昇がみられることが強く示唆され、BDNFの測定は精神障害のバイオマーカーとして、あるいは抗うつ薬の有効性の予測因子として利用できる可能性が指摘されている。

うつ病発症における「脆弱性」については未だ十分に明らかになっているわけではなく、依然として研究途上の段階といってよいかと思われる。

うつ病に対する脳機能画像研究は数多く行われてきており、PET、SPECT、fMRI研究などにより、前頭前野背外側領域においても前頭前野内側領域においても脳血流や糖代謝の異常がみられるという、比較的一致した見解が得られている。
MRI研究に関しても多くの報告があり、1996年にShelineらはMRIを用いて反復性うつ病の海馬体積を測定し、対照群と比較して左右の海馬ともに有意に減少していること、この萎縮の程度がうつ病エピソードの回数と相関していることを報告した。その後、うつ病の海馬萎縮を示唆する報告が相次いだが、一方でこれを否定する報告もいくつか出された。こうした流れの中、米国NIMHを中心とした共同研究が行われ、幼少時期の心的外傷体験の有無によりうつ病患者を2群に分けて海馬体積を比較した結果、体験有り群の左側海馬体積が有意に減少していることが実証され、幼少時期の心的外傷体験が海馬萎縮と密接な関係があり、これが大うつ病の発症脆弱性にも関連する可能性が報告された。

また、Okadaらは機能的MRI(fMRI)による語流暢性賦活課題を用いた検討をうつ病患者と健常者で比較した結果、うつ病患者では左前頭前野のブロードマン46野の活動低下を認めた。さらにUedaらは、快・不快の予測課題を健常者で検討し、快の予測は左前頭前野が、不快の予測は右前頭前野および前部帯状回が有意に活動していることを明らかにしたうえで、うつ病患者と比較検討したところ、うつ病では快予測に関与する左前頭前野の活動が低下していたのに対し、不快予測に関与する右前頭前野、前部帯状回の活動は亢進しており、不快予測が優位な状態となっているため悲観的思考になることを示唆している。

近赤外線スペクトロスコピィ(near-infraredspectroscopu:NIRS)は簡便性や時間分解能の高さ、侵襲性の低さなどから利用が研究されている。
うつ病に対するNIRS研究においては、課題遂行中の前頭部の酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)の増大が健常者に比べて少ない、という同様の結果がいくつかの研究で報告されている。さらに最近では、同じうつ状態でもうつ病と躁うつ病とではNIRS波形が異なることから両者を鑑別できるのではないか、またNIRSを用いることで自殺の危険やうつ病の重症度が客観的に分かり早期に介入できるのではないか、といった点で期待されている。

『うつ病を有する患者では、血清BDNF値の異常な低値がみられること、ならびに抗うつ薬治療の経過に伴ってBDNF値の上昇がみられること』この部分については、解釈は、火事の直後ではBDNFは低値であるが、焼け跡の修復が始まるにつれて値が上昇するとも考えられる。抗うつ薬がどのように効いているかはまだ不明だろう。うつ病が始まったからBDNF値が低下しているのかとは言えないのではないか。BDNF脳由来神経栄養因子は脳神経細胞の修復に寄与する成分なので、神経細胞がダメージを受けて、修復が始まっているという事実を反映しているだけであろう。『うつ病の発症にBDNFが関与している』と即断するべきではないと思う。焼け跡ではBDNF値が上昇するのは合理的である。

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