SDAの文献を読んでいて、考えた。
あるSDAはドパミンによるシナプス部分に作用して、シゾフレニーに効果を発揮する。
またSDAはセロトニンによるシナプス部分に作用して、双極症のうつ状態に効果を発揮する。
つまり、図にするとこんな感じである。
しかし、考えてみれば、シゾフレニーの人はシゾフレニーのプロセスをブロックすればいいだけである。シゾフレニーの人の場合に、バイポーラーのプロセスをブロックしたら、それは余計なことではないか。
同様に、バイポーラーの人の場合に、バイポーラーのプロセスをブロックするのは有効であるが、シゾフレニーのプロセスをブロックするのは余計なことである。
何もしなくていいはずのところを余計にブロックしたらどうなるのだろう。余計なことをした症状が出るのではないか?
健常者にこのSDAを投与したらどうなるのだろうか。
シゾフレニーのプロセスとバイポーラーのプロセスには重なる部分があって、その部分をSDAがブロックするのならば、どうだろうか。これは進行プロセスを線で表現しているから生じる錯誤だろうか。
この図は、シゾフレニーのプロセスとして、一本の線で表現していて、たとえば時間経過に応じて、下から上に動くとする。薬剤はその途中の部分に作用して、その部分で線が途切れる。
実体としては、ドパミンレセプターやセロトニンレセプターに薬剤が作用して、レセプターのアップレギュレーションやダウンレギュレーションが起こる。または、ドパミン or セロトニン再取り込みトランスポーター(Reuptake transporter)を阻害する。
シゾフレニーがドパミン系だけの異常だとして、SDAなどのマルチな効果を持つ薬剤が入ったとき、ドパミン系に作用してシゾフレニーに対しては治療的に働く。しかし、セロトニン系に作用してしまうのは余計なことだと考えられる。
シゾフレニーではしばしばバイポーラー系の異常も起こるので、同時に効かせるのは意味があるという解釈もあるかもしれない。(1)
同様に、バイポーラーの場合はシゾフレニーのプロセスも働いていると無理に仮定して、両方に働くのがよいと考えるのだろうか。(2)
(1)については昔から観察されてきたことで、多分、そうだろう。(2)については、正しくないだろうと思う。
また、大きく単一精神病論で考えれば、それはそれで説明がつく。
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個人的な意見としては、まずbipolarがセロトニン系の異常であるとは考えにくいので、SDAが双極病に効くというのは疑問である。それは鎮静効果があるというだけではないだろうか。しかし、bipolarの人の場合で、manieという火事の後で、修復期に入り、うつ病が見られているとき、そのうつ状態はセロトニンが関与している。SDAはこの焼け跡のうつ病の部分に効いていると思う。
その点を考慮すれば、SDAが効いているのは、A.シゾフレニーのプロセスと、B.焼け跡のうつ病である。
しかし問題なのは、一人の人間の中に、この両方のプロセスがあるのだろうかという問題である。
上にも書いたように、私見ではシゾフレニーの場合にはうつ病のプロセスが進行するので、SDAは理にかなっている。
シゾフレニーの要素が考えられない人の場合に、バイポーラーのうつ状態と診断して使うとして、ドパミン要素はどのように効いているのだろうか。オランザピンでも、アリピプラゾールでも、ルラシドンでも、実際に使ってみて、ドパミン系遮断症状はあまり感じない。投与量が少ないからだと一応は考えられるが、それにしてもどうしてなのだろう。パーキンソン症状位出てもおかしくないと思うのだが。
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セロトニンの放出/再取り込みおよびSRIの役割についての図
- セロトニン(5-HT)がシナプス前神経終末(Pre-synaptic nerve ending)から放出される。
- 5-HTは,シナプス後神経終末(Post-synaptic nerve ending)でレセプター(5-HTR)に結合する。
- 再取り込みトランスポーター(Reuptake transporter)は,シナプス間隙の5-HTレベルを枯渇させる。
- SRIは再取り込みトランスポーターに結合し,5-HTの再取り込みを阻害する。
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そしてなお問題なのが、双極症に生じるうつ症状である。単極性うつ病のうつ症状、シゾフレニーのポストサイコーティックデプレッション、シゾフレニーの陰性症状、シゾフレニーのジンプレックス、などとの鑑別が簡単だとは思わない。まあ、それはそれとして、双極症の場合のうつ症状は単極性うつ病のうつ症状と違うのだろうか。なぜこのSDAの適応症に双極症のうつ状態と出ているのだろう。治験段階でどのように双極症のうつ状態と診断をしたのだろうか。多分質問紙で点数化して反対したと思うが、何を使ったのだろう。それとも精神科医の判断ということなのか。それならばどのような基準を考えたのか。遺伝歴や性格を考慮したというならば、DSMの精神に反している。
DSM-5に忠実に考えるならば、過去に少なくとも一度のmanieを経験していることが条件となって、双極症と診断される。そのうえで、現在の症状がDSM-5のうつ病を満たすことが条件となる。私の考えでは過去にmanieを経験していることが前提条件となるとは思えない。過去にmanieを経験していなくても、効く人がいるはずである。
双極症が明らかならば、当然のこととしてリチウムを中心とする気分安定薬を考えると思うが、その場合に、SDAで試したのだろうか。そして、単極性うつ病のうつ症状の場合には適応症とならずに、双極症のうつ状態だけが適応症となったのは不思議な感じがする。単極性うつ病の一部は内因性うつ病であり、その一部は双極性を持つ(bipolarity)。あるいは単極性うつ病の中の双極性の部分が内因性うつ病であるとの立場もある。少なくとも、単極性うつ病の一部にはSDAは効くはずだと思う。
心因性、反応性、神経症性のうつ状態はどうだったのかと言えば、多分、成績が届かなかったのだろう。理屈から考えて、プラセボと差がつかないと思われる。
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なんだか考えながらの話で申し訳ないが、遺伝子分析から、シゾフレニーと双極性障害は近縁であるとの結論が出ている。その点から言えば、シゾフレニーに効果があり、うつ状態かどうかはおいておいて、バイポーラーに効果があるというのも整合性がある。
しかし、バイポーラー全体ではなく、バイポーラーのうつ状態ということなので、そこは引っかかる。バイポーラーのmanieにも多分効くと思う。外来で遭遇するのはバイポーラーの場合はうつ状態が多いので、このような適応症も有効なのかもしれない。
なんだか書きたいことのポイントを外しているような気がする。忙しいからだろうか。
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簡単に言えば、SDAの場合、dopamin系とserotonin系の両方に効くというのだが、確かに、dopamin系とserotonin系の両方に異常が生じている場合にはよいのだが、片方だけに異常が生じている場合、異常のない方にも薬剤が効いてしまうので、それは不都合ではないかとも考えられる。
シゾフレニーの場合にはserotonin系のdepression症状が、焼け跡うつ病として起こるので、SDAが好都合である。
バイポーラーの場合、シゾフレニーのプロセスが関係しているかどうかについては、関係しているとする意見が少数有力意見、関係していないとするのが多数意見だと思う。私は関係していると思うので、やはりSDAが有効である。
また、私の考えでは、バイポーラーならば有効であり、バイポーラーのうつ症状と限定されないと思う。
さらに、単極性うつ病の中でも、内因性うつ病についてはSDAが有効だろうと思っている。それは、内因性うつ病にはbipolarityがあると思うからだが、これは少数意見である。
DSM-5に従ってうつ病を広くとるならば、その中の、心因性、神経症性、反応性などには効果がないと思う。非定型うつ病、産褥期うつ病などについてはSDAが有効だと思う。
しかし、いろいろなうつ病について、どれが生物学的でどれが心因性かと考えるのはやや違うのではないかと思う。
遺伝子から神経回路の向きの矢印があり、逆に、環境・状況から神経回路の向きの矢印があり、ふたつは神経回路のレベルでぶつかり、レベルを超えた場合にはうつ病を発症する。うつ病AとB。この部分はストレス脆弱性仮説で説明できる。うつ病Cは焼け跡のうつ病である。
SDAは黄色の矢印部分に有効だろうと思う。