この図で分かりにくいのは、うつ病Cについてです。
うつ病Aとうつ病Bについては、情報の流れとして、遺伝子から出発しているか、環境から出発しているかですから、分かりやすいと思います。
意欲を起こす細胞が少なくなると意欲低下になる。喜びの細胞が失われると悲しさばかりが感じられる。さらに悲しみの細胞も失われると、感情自体を感じなくなる。
そのような事態が遺伝子から脳にかけての領域で起こるとすれば、それはうつ病というものに近いのではないかと、とりあえず考えられるわけです。一番素直な考えだと思います。
それがうつ病A。
環境因があまりにひどい場合には、たとえば戦争などがそうですが、脳神経回路に大きなダメージを与えます。皮膚にバラのとげが刺さると傷がついて血が出るようなイメージです。
これがうつ病B。
次にうつ病Cを説明すると、以下のようになります。
遺伝子から発する内因性精神病では、内因性の病理のゆえに、神経細胞と神経回路に損傷が起こり、それを修復するプロセスとして、うつ病Cが発生します。
また、環境因の強度なものとして、PTSDやASR(急性ストレス反応)などがあります。その場合は、外側からの要因で神経回路や神経細胞に損傷が生じ、その回復プロセスとしてやはりうつ病Cが発生します。
つまり、これはうつ病Cと呼んではいるけれども、神経細胞と神経回路の修復過程です。ヒトの体のメスニズムとして、傷を受けたら、安全な場所にいてしばらく静養し食事と睡眠を十分にとります。それが傷の修復に役立ちます。
脳神経の領域でも、神経細胞と神経回路が傷ついたときには、同じような修復過程が進行するものと思います。その期間に観察されるものは、おおむね現在うつ病として理解されているものと同じです。
神経細胞と神経回路が傷つく要因としては、てんかんの場合のように過剰な興奮が始まって、神経細胞や神経回路を傷つけるまでとまらないばあいがあります。統合失調症のシュープの時期とか、双極症の躁状態の時期などがそれにあたります。
また、熱中エピソードが続く、あるいは強迫性エピソードが続くと、そのあとでうつ状態になります。このプロセスはうつ病Cとしてとらえられるものです。この理由で、熱中性や強迫性がうつ病の病前性格となっているわけです。
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上の図の左側だけを切り取ります。
そして従来の分類である、精神病性うつ病、パーソナリティ障害、環境因などを書き入れると、次のようになります。
上図の赤枠が精神病性のうつ病です。このタイプなら薬剤で対処します。場合によっては通電療法が有効でしょう。
黄色の枠がパーソナリティ障害の枠です。これは心理療法が対策となります。
青枠が環境因の枠です。これについては、現実の環境を変化させることが一番の近道であり、有効な対策です。
通電療法の話が出ましたが、これは、修復過程で、途中まで修復が進行したものの、神経細胞の再生がうまくいかず、また、神経回路の再生が間違った方向で進んでしまった場合、いったんご破算にして、また新たに再生作業を始めることに相当するでしょう。だから時に有効な場合があるのだと思います。
これら精神病、パーソナリティ障害、環境因の三分法は便利で説明しやすいものです。私の分類で言えば、精神病はうつ病Aに相当します。環境因はうつ病Bに相当します。パーソナリティ障害は、遺伝子からの影響と環境からの影響が時間経過とともに蓄積されて形成されたものです。そうした蓄積の一部がパーソナリティ障害と呼ばれています。同じような事情が、レベル違いの神経回路や神経細胞のレベルでも、同様に存在するでしょう。ただ現在に至るまでそれらには適切な名前がついていません。
そして、これら三者の関係で説明できるならいいのですが、神経症性の成分については別枠ですし、私の言ううつ病Cについては言及されていません。
つまり、従来の説明では、初めの図の左側が見えているだけど、右側が見えていないことになります。
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直接神経細胞と神経回路が障害を受けるうつ病A、Bと、損傷からの修復過程であるうつ病Cとの違いがあるのだと言いたいのですが、すっきりはしないままですね、現状では。説明が下手なのか、理解が不十分なのか、自分でもすっきりしません。