うつ病の場合、海馬と前頭前野(ぜんとうぜんや)の一部、内側(ないそく)前頭前野の体積が縮小しているという報告があります。脳体積の縮小は、細胞死以外に、樹状突起の退縮やシナプスの減少によっても起きます。
うつ病の患者さんで縮小が見られる内側前頭前野は、扁桃体(へんとうたい)を制御しているといわれています。
扁桃体は、敵に襲われるなど怖い出来事があると活性化して、敵と戦う、あるいは逃走するという適切な対処を促します。そのような恐怖体験を記憶する役割も扁桃体にはあります。
危険な状況では扁桃体が活性化して適切な行動を取る必要がありますが、理由もないのに日常的に扁桃体が活性化していると、理由がないのに不安感が続いたり、目の前の出来事から逃げ出したりする無気力な行動(うつ様行動)が現れます。そのような扁桃体の不必要な活性化を内側前頭前野が抑制しています。
しかし、内側前頭前野の神経細胞の樹状突起が退縮してしまうと、扁桃体を抑制するはたらきが弱まってしまい、うつ様行動が現れるのでしょう。
軽症のうつ病には、抗うつ薬を使わない治療法である認知行動療法が効果を発揮するケースがあります。それは出来事をネガティブに解釈する認知のゆがみを、専門家の指導のもとで修正していく方法です。それにより、内側前頭前野による扁桃体の制御が回復して、うつ病の症状が改善すると考えられています。