ドーパミンは、ノルアドレナリンの前駆体として知られていましたが、そのはたらきはよくわかっていませんでした。ドーパミンのはたらきはスウェーデンの薬理学者、アルヴィド・カール ソンらによって1950年代に研究され、カールソンはその業績が称えられて2000年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
ドーパミンも拡散性伝達によって信号を伝達する神経修飾物質の1つで、大きく分けて運動機能と情動機能を司る脳機能に関わっています。情動というのは、快・不快、嫌悪や恐怖、喜怒哀楽など私たちが普通「感情」と呼んでいる脳機能のことを指します。したがって、ドーパミンは、人間らしい生活を送るためにはなくてはならない必須の神経修飾物質です。
ドーパミン作動性ニューロンの投射経路はいくつかあることがわかっています。
中脳(脳幹の一部)の中心部に存在する黒質緻密部(こくしつちみつぶ)から線条体に投射するドーパミン作動性ニューロンは、姿勢や随意運動(自分の意志で制御できる動き)の制御に関与しています。
一方、黒質よりさらに深部にある腹側被蓋野に存在するドーパミン作動性ニューロンは、大脳皮質を含む広範囲に投射し、情動に関与します。とくに、空腹時に食事をすることや性行動など、本能が満たされる際の快感や、これらの快感をより多く得ようとするために将来を予測した結果生じるやる気などと関連する報酬行動への関与は注目に値します。
ドーパミン作動性の広範囲調節系。脳の中心にある黒質緻密部から線条体など矢印の方向へドーパミン作動性ニューロンが連なって伸びていき、ドーパミンを拡散している。なお、線条体は被殻と尾状核をあわせた神経核で、大脳髄質にあるため、表面からは見えない
記憶とも密接に関与していて、受けた感覚情報を過去のものと参照して、評価することにも関わっています。このような報酬とそれに関連する行動の変化のことは、一般に報酬系と呼ばれています。
報酬系では、刺激とそこから得られる情動との連合を学習し、予測に基づいて適切な行動を選択することも知られています。たとえば、ある食べ物がとても美味しくて良い気持ちになったとします。脳は素早くそれを学習し、次に同じ「報酬」を得ようとして、報酬が最大になるように適切な行動をとる、すなわち好きなものばかりを食べるようになるというわけです。
また、ドーパミンが作用する脳の淡蒼球(たんそうきゅう。これも大脳基底核の一部)と呼ばれる部分は、報酬の量を予測し、やる気をコントロールすることから、脳の「やる気スイッチ」とも呼ばれています。意欲やモチベーションというのは、のちに来るであろう報酬を予測できるからこそ持続できるのであり、高度な「知性」だと言えます。