下書き うつ病勉強会#95 生活習慣と睡眠がメンタルヘルスに与える影響

生活習慣と睡眠がメンタルヘルスに与える影響についての広範な調査報告の論文があったので要約してみる

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人間は必ずしも心理的ストレスや職業性ストレスなどの要因のみで精神的不調をきたすわけではない.近年の研究では生活習慣や睡眠とメンタルヘルスとの関係が示唆されており、予防医学的に重要である可能性がある。

(1)メンタル不調があれば、生活習慣の乱れや睡眠不良となるであろうことは容易に考えられる。

(2)逆に、生活習慣の乱れや睡眠不良がメンタル不調の原因となることはあるのか。

(3)また、原因とならないまでも、メンタル不調になりやすい素地を作ることはあるのか。

(2)と(3)の場合には、予防医学的に介入することができるかもしれない。

2200人くらいのオフィスワーカーを調査した。

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【これまでの知見】

日本におけるコホート調査は、野菜類や果物、魚食に代表される健康的な食生活が自殺率と関連し、良好群に対し不良群ではおよそ倍のリスクが生じることを示している.健康的な食材を摂取すれば抑うつは少なくなる。

運動は軽度ないし中等度のうつの改善あるいは予防効果をもつとする研究が複数ある。

睡眠はメンタルヘルスとの関連が非常に強い要因である.睡眠不足や睡眠障害は,神経の微小構造の破壊や,視床下部―下垂体―副質系(hypothalamic‒pituitary‒adrenalaxis:HPAaxis)の亢進を介した神経新生の阻害といった器質的ダメージを脳に与える.睡眠の問題はうつ病や不安障害の強いリスクである。

例えば業務が過多となり残業が増えれば,睡眠時間が減少したり朝食の欠食が生じたりすることは容易に想定されるが,このときその双方を同時に分析しなければ,メンタルヘルスに直接影響を与えたのは仕事のストレスなのか,あるいは睡眠や生活習慣のどちらなのかは判断することができない.

また例えば「野菜を食べていないし、朝食は欠食しているし、毎日飲酒しているし,運動もしていないし、睡眠も質が悪い」ような場合に、そのすべてを最初から改善することは現実的ではない。そのうちどれから手をつけることがメンタルヘルス上重要なのか、その手がかりを探したい.

これまで、オフィスワーカーにおいて職務上の要因も統制し、複数の生活習慣を包括的に調査した縦断研究は皆無である.それを今回実施したので報告する。

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【結果要約】

通勤時間,食事の時間の不規則さ,野菜類の摂取頻度の少なさ,飲酒,寝室で朝日を浴びないこと,就寝1時間前以内の夕食,電子デバイスのディスプレイを就寝直前までや寝床のなかでも使用すること,夜間のカフェイン摂取,座位行動などが,仕事のストレス要因や周囲のサポートを統計的に調整したうえでも有意にストレス反応やその増減と関係していた.交差遅延効果モデルは、過去のストレス反応が現在の生活習慣や睡眠の問題を予測する度合いよりも、過去の生活習慣や睡眠の問題が現在のストレス反応を予測する度合いのほうが大きいことを示した.

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【結果】

通勤時間(回帰係数=.025pt/分,標準化回帰係数(β)=.045),食事の時間が不規則(2.784pt,β=.082),野菜類を毎日摂取しない(3.288pt,β=.093),機会飲酒(-1.281pt,β=-.039),寝室で朝日を浴びていない(1.667pt,β=.056),電子デバイスのディスプレイを就寝直前に使用する(1.377pt,β=.048),夜間にカフェインを毎日摂取する(1.423pt,β=.049),前年度の食事の時間が不規則(1.573pt,β=.046),前年度の座位行動時間(4.622pt/%時間/日,β=.061),電子デバイスのディスプレイを寝床のなかでも使用する(1.828pt,β=.059),といった生活習慣が,諸要因を統制したうえでもストレス反応に影響を与えている項目であり,このモデルは,次年度のストレス反応の変動の42.8%を説明した。

心身のストレス反応の増大に関連する生活習慣要因として,通勤時間(.016pt/分,β=.034,P=.084),食事の時間が不規則(1.670pt,β=.049,P=.007),就寝前1時間以内の夕食(1.410pt,β=.038,P=.056),野菜類を毎日食べない(1.369pt,β=.047,P=.019),機会飲酒(1.079pt,β=.040,P=.093),座位行動時間(2.382pt,β=.038,P=.048),寝室で朝日を浴びていない(.954pt,β=.039,P=.043)が検出された。

分析の結果からは,複数の生活習慣や睡眠の問題が有意に将来のメンタルヘルスの状況に影響を与えること,それらは諸要因を調整してもなお有意であること,時系列を利用した解析によって,生活習慣や睡眠の問題は不調の結果として生じるのではなく,不調の原因となる側面のほうが大きいことが示された。

しかも生活習慣と睡眠の問題は独立した要因である。

メンタルヘルス不調の一次予防には、生活習慣と睡眠の改善が重要な役割を果たす可能性が示唆された。

食事に関しては、野菜類とメンタルヘルスとの関連は、本研究でも、その摂取頻度を把握するだけであっても差が見られた.野菜類に多く含まれる葉酸の欠乏はうつを引き起こすこと、逆に、継続的な摂取でうつの発症リスクが低下しうることなどとも整合的である.野菜類がメンタルヘルスに与える影響には、高血糖の予防効果や腸内環境の改善効果など、他にも多くの機序があると考えられる.また、食事の内容のみならず,そのタイミングの重要性も示された.抑うつとの関連が示唆されている朝食の欠食は本研究の多変量解析で有意な差を生じなかったが、食事時間の規則性や就寝直前の夕食はメンタルヘルス不調と関連した.食事時間の規則性は体内時計を整える観点から心身の健康に重要である可能性が示唆されており、それと整合的な結果である.就寝直前の夕食はわずかに有害である可能性があった.なお、適切な夕食時刻については既存研究に乏しく、就寝3時間前以内の摂食が胃食道逆流症と関連することが示されているのみである。

飲酒は用量依存的に健康リスクが生じ、健康的な飲酒適正量はゼロであるとする近年の結果と整合的である。

機会飲酒も毎日の飲酒も、いずれも将来のメンタルヘルスを悪化させる。

飲酒量ではなく飲酒頻度が有意な要因として検出されており、飲酒頻度の多さ(休肝日の少なさ)が将来の死亡率と関係するというコホートの結果とも類似である.アルコールは神経新生の阻害などが生じる.高頻度の飲酒は脳が常にアルコールに曝露している状態を作り出し、回復する間もなく脳に器質的ダメージを与え続けてしまい、結果的にメンタルヘルスを損なう可能性がある。

運動習慣は本調査ではごくわずかな効果量しか見いだせなかった.運動の精神的健康に与える影響は限定的であるとの既存研究もあり、複数の生活習慣を調整した本研究で有意な差が生じなかったのはその寄与度の小ささを反映している可能性もある

学生を対象としたコホート調査は運動,喫煙,社会的リズムが将来のメンタルヘルスの状況を予測することを示していた。

抑うつとの関連が知られている座位行動の多さは、本研究では多変量解析を通じてメンタルヘルス不調に与える影響が示された.

睡眠と睡眠衛生として知られる項目もメンタルヘルスに関連する重要な因子として検出された.遮光カーテンや雨戸の使用や,日当たりが悪いなどで,寝室で朝日を浴びないこと,また,就寝直前あるいは寝床のなかで電子デバイスのディスプレイを使用すること,夜間にカフェイン飲料を摂取することは,睡眠の問題と関連することが示されている。

本研究で、睡眠の問題は、不調の結果というより、不調の原因となっている度合いのほうが2倍程度大きいことが示された.将来のメンタルヘルス不調の予防に重要である可能性が高い.なお、日本人全体の2割、ホワイトワーカーの45%は睡眠の問題を有しているとされ、睡眠の問題の改善によるメンタルヘルス不調の改善余地は非常に大きい.

本分析では,その影響量(回帰係数)の大きい順に,毎日の飲酒,食事の時間が不規則,就寝1時間前以内の夕食,野菜類を毎日食べないこと,機会飲酒,寝室で朝日を浴びていないこと,が挙げられ,また,座位保持時間と通勤時間の長さには用量依存的な弊害が認められた.例えば、片道120分の通勤時間は、毎日の飲酒と同程度のメンタルヘルス悪化リスクをもたらすと推算される.労働者がこれらの要因を複数もっていた場合,本人にとっての改善のしやすさも勘案しながら,係数の大きい項目の改善を優先的に促すことで,ある種の行動療法として,効率的に将来のメンタルヘルスの問題を軽減できる可能性がある.また、一般的には健康に関連する生活習慣として「食事、運動、休養(睡眠)、飲酒、喫煙、口腔衛生」が挙げられる.このうち後述のように本研究では「食事,運動,休養(睡眠),飲酒」のみを調査しているという限界があるが,この項目のなかでは,食事と休養と飲酒の影響がメンタルヘルスの変動に与える影響が大きいこ

今回十分に確認できていない生活習慣があり、それらは評価ができていない.項目としては例えば,喫煙,口腔衛生,文化的活動への参加,社会的つながり,ソーシャルリズム,読書習慣,趣味の有無,間食の有無,プロバイオティクス食品の摂取,ω3脂肪酸を含む不飽和脂肪酸の摂取,鉄分や亜鉛の摂取,外食頻度,高度に精製された穀物類の摂取,スナック菓子の摂取,清涼飲料水の摂取,インターネットやSNSの利用,ゲーム時間,テレビやメディアの視聴時間などがある.

生活習慣と睡眠の問題は職務要因とは独立してオフィスワーカーのメンタルヘルスに影響を与えている。

過去の生活習慣や睡眠の問題が現在のストレス反応を予測することを示した.メンタルヘルスとかかわる生活習慣や良好な睡眠は,将来の良好な心理的状態を生み出す資産やレジリエンスとしての働きをもち,その改善は,心理療法や薬物療法とは別の側面からの,メンタルヘルスケアや一次予防の方策の1つとなる可能性がある。

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以上であるが、まとめるとこうなる。

影響が大きい順にあげる

【生活習慣】

毎日の飲酒(アルコールはゼロが望ましい)

食事の時間が不規則

就寝1時間前以内の夕食

野菜類を毎日食べないこと

機会飲酒

寝室で朝日を浴びていないこと

座位保持時間の長さ

通勤時間の長さ

【睡眠】

遮光カーテンや雨戸の使用や,日当たりが悪いなどで,寝室で朝日を浴びないこと

就寝直前あるいは寝床のなかで電子デバイスのディスプレイを使用すること

夜間にカフェイン飲料を摂取すること

【今回検証なしだがこれまでに指摘されていること】

喫煙,口腔衛生,文化的活動への参加,社会的つながり,ソーシャルリズム,読書習慣,趣味の有無,間食の有無,プロバイオティクス食品の摂取,ω3脂肪酸を含む不飽和脂肪酸の摂取,鉄分や亜鉛の摂取,外食頻度,高度に精製された穀物類の摂取,スナック菓子の摂取,清涼飲料水の摂取,インターネットやSNSの利用時間,ゲーム時間,テレビやメディアの視聴時間

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どれも特に目新しいものではない。

しかし例えば「野菜を食べる」について考えても、農薬の問題とかいろいろあるはずなので、簡単ではないだろう。

「睡眠」については、睡眠時間とか、入眠時刻と起床時刻、深さ、REM期の割合、寝返り、夢、呼吸、いびき、寝汗、ムズムズ足、などいろいろあるはずであるが、今回の調査では物足りない感じがする。

座位保持時間の長さが問題になるというのはなるほどと思った。それと関連して、一日の歩数について、日本人の歩数の現状では、1日平均で、男性8,202歩、女性7,282歩である。当面10年間の目標として、男女とも歩数の1,000歩増加を目指し、1日平均歩数を男性9,200歩、女性8,300歩程度を目標とする。1,000歩は約10分の歩行で得られる歩数である。

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