下書き うつ病勉強会#119 反応性・心因性・神経症性うつ病-3 身体疾患に関する神経症

ここまで、反応性・心因性・神経症性疾患について考えてきました。ここで、最近の疾患分類を眺めてみましょう。

ここでは、反応性・心因性・神経症性疾患について、精神の領域も身体の領域も含めて、簡単に神経症と表記します。(こうするから誤解が広がるのだと思うが、まあ、仕方ない。反応性・心因性・神経症性もそれぞれ違いがあることは確かであるが、これも仕方がない。)

精神の領域では神経症が各種不安性障害の一部に、あるいは気分変調性障害などうつ病の一部に名前を変えています。身体表現性障害とか変換性/転換性障害との言葉もあります。身体領域の神経症についてはこちらの言葉のほうが直接内容を指しています。

まず考えやすい身体疾患に関する神経症について考えましょう。
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身体症状症(旧:身体表現性障害)
身体症状症は患者さんの自覚症状に見合う身体的異常や検査結果がないにもかかわらず、痛みや吐き気、しびれなど多くの身体的な症状が長い期間にわたって続く病気です。
患者さんの中には、体に力が入らくなったり、けいれん発作のような症状が出現したりすることもあります。症状は体のさまざまな場所に生じ、しばしば変化します。
患者さんの中には、症状を身体的に説明する原因がないということが受け入れられず、医療機関を転々としてしまい、精神科受診に至るまでかなりの時間がかかってしまう方もいらっしゃいます。
また、多くの患者さんは、そうした身体症状のために仕事、学校や家庭などにおける日常生活に支障が出ています。
近年のアメリカを中心とする精神科診断の分類の整理や、日本語病名の検討委員会の話し合いから、新しい分類や呼称が使われるようになりました。以前はこの章で扱われる病気は「身体表現性障害」と分類されていましたが、重複があったり境界があいまいだったりしたことから、新しい呼び名では「身体症状症および関連症候群」と呼ぶことになりました。以下では、新しい名称を使いながら、一部、古い名称をも併記します。

症状 代表的な身体症状症 「身体症状症および関連症群」に分類される病気にもいくつかの種類があります。そのうち代表的なものを以下に示します。

身体症状症
痛みや胃腸症状などのさまざまな身体症状が続くが、適切な診察、検査を行っても身体的な病気や薬による影響としては十分に説明できない、という病状です。痛みが主なものを、従来は疼痛性障害と呼んでいました。

病気不安症
重い病気である、病気にかかりそうだという気持ちが非常に強くなる病状です。身体の病気は存在しないか、あるいは存在したとしてもごく軽度で、気持ちの状態と実際の身体的な状態とに大きなギャップが生じます。従来は心気症と呼ばれていました。

変換性/転換性障害(機能性神経症状症)
力が入らない(脱力・麻痺)、筋肉の強い突っ張り、歩けない、などといった運動に関する症状や、皮膚の感覚がおかしい、見えない(一部しか見えない)、聞こえない(聞こえにくい)、といった感覚の症状が出ます。他にも全身の筋肉がけいれんするてんかん発作のような症状が出現したり、意識を失ったかのような症状を生じたりすることもあります。あるいは、声が出ない、のどの中に何かの塊があるという感覚(ヒステリー球、と呼ばれます)もしばしばみられる症状です。

(身体症状症と変換性障害(機能性神経症状症)の区別は、身体症状症は症状が出る場所が「身体」で、変換性障害(機能性神経症状症)は症状が出る場所が、脳神経内科的な「神経系」という区別になるでしょう)

診断 原因は何でしょう?
心身の疲労や環境変化などのストレスが何らかの形で患者さんの症状の形成にかかわっているという考え方があります。しかし、必ずしもストレスが原因とは言い切れませんし、実際に脳の中で何が生じているのかは明確にはわかっていません。
(心因だろうと除外診断的に推定されるということになります。)

どのように診断するのでしょう?
患者さんの訴える身体症状を引き起こすような身体的な病気が存在しないこと、つまり除外診断が大前提となります。内科や整形外科など、患者さんが困っている症状を通常担当する科で検査を受けていただき、本当に症状の元となるような病気がないことを確認します。身体的な疾患がないことが確認できたにも関わらず、さまざまな身体症状が持続するとき初めて身体表現性障害が推定されます。これを身体症状症と診断されたといってよいかどうかは難しいところです。確定はできないでしょうが、暫定的にというくらいの意味でしょう。

うつ病や不安症などほかの精神疾患が合併することがあります。
身体症状症では、患者さん自身は紛れもなくその身体症状による苦痛を感じており、詐病や仮病とは異なります。

治療 どうすれば治りますか?
まず、身体的な問題はないということをきちんと理解、納得することが大切です。患者さんにとっては辛い症状なので、身体的に問題はないということを受け入れることに抵抗があるようです。しかし、身体的な精査や、検査結果に基づかない治療を繰り返すことでは症状は改善しませんし、症状に苦しむ時間が長引いてしまいます。この、理解・納得は難しいですね。でも、実際に心療内科的治療で治った場合には最終的に納得していただけます。治るまでは納得は難しいと思います。

症状が比較的軽いときには、なるべく普段通りの日常生活を送ることが大切です。と言っても、声が出ないとか歩けないとか、かなりの支障が出る場合に、身体症状症と診断されることが多いですから、普段通りともいかないでしょう。普段通りに生活できるなら、特段身体症状症と診断する必要もないわけですから。

精神科的な治療としては、下記のような治療法があります。

薬物療法
抗うつ薬や抗不安薬の使用が有効な場合があります。痛みの症状が強い人には、しばしばセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)と呼ばれるタイプの抗うつ薬を試します。
これが不思議なんですが、原因不明の痛みに抗うつ薬などが効く。場合によっては古いタイプの抗うつ剤である三環系抗うつ剤などが効いたりする。ペインクリニックから心療内科に紹介があった患者さんなどはトリプタノールなどすでに使っていることがあります。メカニズムは不明です。
夏樹 静子著 腰痛放浪記 椅子がこわい (新潮文庫)などが有名です。
夏樹 静子著 心療内科を訪ねて―心が痛み、心が治す (新潮文庫) もあります。

認知行動療法
症状が悪くなるきっかけや状況、逆に症状が良くなる因子を明確にし、症状が軽くなるような行動を促していきます。

精神療法
症状の原因となりうるストレスについて理解したり、その対処を考えていったりすることが症状のコントロールに有効です。
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以上説明したような身体症状症がまさにフロイトの出発点だった。シャルコーやブロイアーと出会い、神経症に対して催眠療法を使い、のちには自由連想法を始めた。

心療内科はこの領域の治療を研究しましょうという趣旨で始まったわけです。昔東大には物理療法内科というものがありました。それにならって心理が問題になっている困りごとを心理を治療することで解決しようというのが心理療法内科というわけです。主な対象疾患は昔で言うなら神経症で、現在の言葉で言えば、身体症状症ですね。

神経症のメカニズムはどうなっているのか、本当に不思議なことです。身体的疾患とまったく同じ症状が心因によって引き起こされているのは驚異です。

心理的原因を考えるにあたって、フロイトのように、無意識の活動まで視野に入れれば、理解の可能性は大きく広がります。それは劇的に拡大するわけです。まあ、実証的ではないのは確かだけれども。フロイトと方法は類似だが、内容が少し違うようなものはいくつも考えられるし、それぞれで有効な場合があるのだろう。無意識、転移、幼児体験の重視、この三点などはどの精神分析流派でも共通に重視しているものだろうと思うけれども、細部に至ると混とんとしていて、いまだ科学という段階ではない。しかしだからといって封じ込めていいものでもないので、その成果は、生かすべきだろう。精神分析的用語を使わなくてもよく、遺伝子や脳神経細胞、神経回路などを具体的に考えて、精神分析的概念や用語を神経学的に翻訳していくのが一つの道だといわれている。

しかしほかに方法がない場面で、心理療法で悩み事に改善がみられるのだから、それはそれでもっと考えを深めてもよいのだろう。精神分析学派が主張するのとは違う要素が効いている可能性があるので、そこも慎重に考える必要がある。何も考えないで教条的に硬直している精神分析とかその周囲の『流派』はどのような在りかたをしているのか、周囲としては見守る感じだ。数学みたいに、いろいろな人が共通の言葉で理解しあい、人類の財産になってゆくのが健全だと思う。理由も理解できないのに教条的になるのにも事情があるのは『了解』できるのだが、健全とは言えない。

心理療法の中のどの要素が本当に有効だったのかの検証についても、さまざま意見がある。特定の治療システムが有効なのか、あるいは非特異的要素が効いているのか、問題はある。

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