「認知機能障害」はうつ病期には必ずと言ってよいほどみられますが、さらに問題となるのは、残存する場合です。つまり、うつ病患者さんがせっかく寛解に至っても、残遺症状として「認知機能障害」があると、業務や学業をうまく進めることができず、日常生活での困難さや社会的機能に悪影響を及ぼすからです。さらに最近では、「認知機能障害」が「機能的リカバリー」や患者さん自身の「主観的リカバリー」にも影響を及ぼすという考え方が広まりつつあります。また、うつ病寛解後に「認知機能障害」、特に「選択的注意」、「作業記憶」、「長期記憶に関する障害」が残存しやすく、再発を繰り返すとこれらが悪化することがLancetに報告されています。
寛解後のうつ病患者さん110例を対象に、ウェクスラー記憶検査(WMS-R: the Wechsler Memory Scale-Revised)の論理的記憶(遅延再生)のサブセットを用いて、記憶機能障害の有無を確認し(記憶障害あり群45例、記憶障害なし群64例)、その方々のうつ病再発有無を追跡調査しました。その結果、調査期間におけるうつ病再発率が記憶機能障害残存群では55.6%、非残存群では32.8%の結果であり、再発までの時間を検討したカプランマイヤー法でも、記憶機能障害残存群と非残存群間には有意差がありました(p=0.03、Log-rank test)。つまり、寛解後に記憶機能障害が残存すると、再発リスクが高まるわけです。交絡因子を統制したCox比例ハザードモデルでは、記憶機能障害が残存すると2.5倍以上再発のリスクが高くなるという結果でした(p=0.006*)。
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内因性うつ病の場合に残遺症状として認知機能障害がみられるとの観察が近年主張されるようになった。
うつ病の前と後で、比較するのは、データ採取が難しい。うつ病治療がいったん終わった人に対して、認知機能障害があるかどうかテストして記録しておいて、それらの人が後にうつ病を再発するかどうかは調べやすい。
内因性うつ病で残存症状があるのはまあまあ理解できるが、残存症状の有無が次のうつ病の予測因子になるかどうか。この場合の認知機能の内容は何か。それがうつ病の再発とどうかかわっているのか。再発時にどのようにうつ病が始まっているのか、精密に検討する必要がある。メカニズムが謎である。あるいは、認知機能低下は特異的な所見ではなく、全般的に機能レベルが一段低下することの一部だとすれば、それはそれでそうだろうと思う。
それがうつ病の病理の中心部分なのか、病理の周辺部分なのか。
それとも、しばらくしたら誰も言わなくなるのか。
参考文献:Cognitive impairment in bipolar disorder and schizophrenia: a systematic review : S Nassir Ghaemi:2013
V-hringer_et_al-2013-Frontiers_in_Psychiatryダウンロード
この論文の要約。
実行機能、記憶、IQ、注意集中、知覚運動機能などを寛解期BD患者と寛解期SZ患者と健常対照群で比較した。BD患者、SZ患者ともに、全ての神経認知指標に障害があることが分かった。SZ患者はより重篤で広範な障害を呈し、BD患者はより軽度で限定的な障害を呈していた。両群間では質的な(プロファイルの)差はなく、量的な(欠損の程度の)差があると思われた。